「ウイルスセキュリティZERO」を皮切りに、「更新料ゼロ円」を広げるソースネクスト。その第四弾として、ホームページ作成ソフトである「ホームページZERO」を発表した。同社の松田憲幸社長に、その狙いと今後の戦略を聞いた。

「ZERO」シリーズは順調、バージョンアップにユーザーは辟易していた?

ソースネクスト 松田憲幸社長

ソースネクストといえば、1,980円を中心とした低価格ソフトや、「驚速」シリーズなどのユーティリティソフトで知られたパッケージソフトメーカーである。低価格路線でシェアを広げてきたが、「更新料ゼロ円」を売り物にした「ウイルスセキュリティZERO」を2006年5月に発売して以降、ビジネスモデルをすこしずつ変化させてきた。現在までに、「携快電話ZERO」「筆王ZERO」を加えた3本を販売している。

「ZEROシリーズは、市場に受け入れられている、という印象をもっています。ウイルスセキュリティZEROを出すまでは、セキュリティ対策のジャンルでは万年三位、という状況でしたが、現在はおかげさまで一位になりました」

更新料ゼロ円は、確かにインパクトがあった。だが業界では、「売れるのは一年目だけでは」とも言われてきた。パッケージソフトは、バージョンアップ直後の広告宣伝が行き届いている時期に売れ、露出が少なくなると売れなくなる場合が多いからだ。更新料ゼロ円ということは、「バージョンアップに伴う広告」がなくなる。だから、2年目以降は売れない、と言われたわけだ。だが松田社長は「そうはならなかった」と説明する。

「むしろ2年目から売れてきました。マーケットが広がってきた、ということでしょう」

その理由を松田社長は、「ユーザーがバージョンアップという形態に疲れていたから」と分析する。

「バージョンアップを毎年繰り返し、機能があまり変わっていないのに、『取り巻く環境が変わったから』といった理由だけでお金を払わせている、その姿勢自体が飽きられていた、ということです。音楽のCDが1年経ったら聞けなくなる、なんてことはないですよね。HD DVDがなくなって大変だ、という話が出ていますが、パソコンソフトの業界では、それに似たことがしょっちゅう起きていたわけです。我々の製品でいえば(ZEROになる前の)『携快電話』がそうでした。ドコモの新しい携帯電話が出たら、『それには対応していないので買い換えてください』と言っていた。それでは確かにたまらないですよ」

もちろん、「更新料ゼロ円」による低価格化による集客も、ソースネクストの作戦の一つである。アップデート後にも店頭でアピールしやすいよう、中身は同じでも、パッケージデザインを変えるなどの「リフレッシュ」を行っている。もちろん、広告などにも継続して力を入れている。

ZEROシリーズは、ソフトの価格を下げる、という目的で作られたわけではない。セキュリティ上の脅威や携帯電話の新機種発売といった「外的要因」によって機能が細かく変わるような場合には、「新しいソフトを買うことなく使える」ようにすることを狙ったものだ。

「ですから、なんでもソフトはZEROにできる、というわけではないです。『驚速』のようなユーティリティの場合、新機能にお金を払っていただいている、という側面があるので、どこまでZEROにすべきかは議論が必要です。ですが、環境変化が多くて、それに関わるバージョンアップが多いものについては、もう『ZERO』にすべきだと思いますね」と松田社長は語る。

「新しいウェブの環境」に対応するためにホームページ作成を「ZERO」シリーズに

そして、その条件にあてはまる「第四のZERO」として選ばれたのが、「ホームページ作成ソフト」であった。選択の理由を、松田社長は次のように説明する。「とにかく、ウェブの世界はなにが起きてもおかしくないですから。新しい技術を使おうにも、『それはサポートしていません』ではお客様はたまらない」

その象徴ともいえるのが、ホームページZEROに組み込まれた、アフィリエイトやガジェットといった、他のウェブサービスと連携する機能だ。発売時点ではアマゾン・コムと楽天市場のアフィリエイト、そしてGoogleガジェットに対応しているが、「今後新しいサービスにもどんどん対応していく」(ホームページZERO開発担当者)という。そのアップデートも、もちろん「更新料ゼロ円」だ。ホームページ作成ソフトのジャンルでは、IBMの「ホームページビルダー」が圧倒的なシェアを持つ。ソースネクスト自身、一時はIBMよりホームページビルダーを仕入れ、パッケージ化して販売していたが、今回は「打倒ホームページビルダー」を強く意識して自社開発した、オリジナルのソフトで勝負をかける。

「自社開発にこだわったのは、『ZERO』にするなら、自社で作って隅々まで保証できるようにする必要があるからです。ライバルの『ホームページビルダー』は、テンプレートのデザインも良くないですし、アップデートも有料。我々は小刻みに機能も改良していきます。一年で、ずいぶん差がつくのではないかと思います。とはいえ、短期決戦ではなく、じっくりやりますよ」と松田社長は言う。

ちまたでは、個人がネットで情報発信をするならブログで、という流れが強い。そんな中で、ホームページ作成ソフトに多大な投資をするのはギャンブルにも思える。だが松田社長は、「ホームページ作成ソフトには大きな市場がある」と確信している。

「ホームページビルダーで作られるウェブは、今時のウェブのトレンドに合っていない。よりモダンで見栄えのするウェブを作れるようにすることで、差別化を図れるはず」と開発担当者も自信を見せる。

松田社長は、マーケット的な状況をより重視している。

「ホームページ作成ソフトは高い。一般の方が変える価格ではないですよね。店頭で、学生さんが少ない手持ちで、無理してソフトを買われている、という姿を見かけることがあります。ブログばかりが注目をあつめていますが、ブログですべてが終わるわけではない。中小企業やサークルなどのページように、ブログではできないページもたくさんあります。11年前に『特打』を出した時、タイピングソフトの市場は非常に小さくて寡占状態でした。それを我々が広げた結果、大きな市場になったんです。それ以上の可能性が、ホームページ作成ソフトにはありますよ」

そもそも松田社長は、「パソコンソフトはもう売れない」という見方にも反対する。

「私はそうは思いません。大手家電店の出店が相次いでおり、そこには必ずソフト売り場があります。そこだけを見ても、シュリンクする、というイメージはないです。確かに以前と違い、セキュリティ関連ソフトが4割を占める、という状況ですが、まだまだ伸びますよ。SaaSやASPですべてが取って代わられるとは思いません」

ソースネクストは、ソフトの低価格化によって市場を広げ、シェアを拡大してきた。それに続く戦略である「ZERO」で、また新たな市場を拡大したい、というのが同社の狙いでもある。

ZEROシリーズは10年先を見る ~現在第5、第6弾を検討中~

「ZEROシリーズは、10年くらい先を見てビジネスを考えています。Vistaの次への対応をどうするかはまだ未定ですが、時期によっては、次のOSに対応することもあるかも知れません。ですが現時点では少なくとも、Vistaのサポート期間中はゼロ円で更新します。OSでの区切りというのは、お客様も理解しやすいですし、いいところなのではないでしょうか」

もちろん、次の「ZERO」も検討中だ。「まだなにかは明かせませんが、第5弾・第6弾も検討中です。お楽しみに。やはり条件は、『外的要因で環境が変わるもの』ということになるでしょう。例えば、法制度とか」

それがなにかはまだわからないが、ソースネクストは、まだまだ「パソコンソフト市場」で積極的に攻めるつもりのようだ。