先端半導体技術および回路に関するに国際学会「VLSIシンポジウム2024(2024 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits)」が2024年6月16~20日、米国ハワイで開催されるのに先立ち、VLSIシンポジウム委員会が会議の概要や注目論文を発表した。

VLSIシンポジウムは、1981年以降、京都とハワイで交互に開催されており、2024年はハワイでの開催となる。今回のテーマは、「デジタルとフィジカルの世界を効率とインテリジェンスで橋渡し(Bridging the Digital and Physical Worlds with Efficiency and Intelligence)」で、委員会では「DX社会へのシフト、生成AIサービスの爆発的普及により半導体の需要は激増しているほか、物理空間と仮想空間を高度に融合してサービスに変えるデジタルツインも、物理空間から大量のデータを取得するのに半導体を活用。AIでデータの取得や分析を行う必要もあり、AI半導体が重要になっている。そのような意味を今年度のテーマに込めた」と説明している。

経済安全保障という側面から世界的な半導体ブームもあり、投稿論文数、採用論文数ともに過去最多を更新。投稿数は、従来は500〜600件ほどであったのが897件まで急増したとする。また、地域別で見ると、中国を中心としてアジアからの投稿が増加したという。

最多投稿は中国の237件で、次いで韓国の187件、米州(米国およびカナダ)の167件、欧州106件、台湾103件、日本42件、シンガポール39件、インド9件となっている。VLSIシンポジウム委員長の濱田基嗣氏は「京都とハワイで交互の開催だが、ハワイ開催年の方が投稿数が若干多い傾向がある。前回の京都開催でも非常に多くの論文が投稿されたと感じていたが、今回はそこから約40%も増加した」と述べている。

  • VLSIシンポジウムへの国・地域別投稿数の推移

    VLSIシンポジウムへの国・地域別投稿数の推移 (出所:VLSIシンポジウム委員会。以下すべて同様)

採択論文数は232件で、全体採択率は26%と例年以上の狭き門となった。地域・国別でみると韓国と米州が最多で54件ずつ。採択率は韓国が29%、米国が32%となる。次いで中国の37件で採択率は16%、欧州36件の同34%、台湾26件の同25%、日本16件の同38%、シンガポール8件の同21%、インド1件の同11%と続いており、応募および採択件数ともに韓国、中国、台湾といったアジア勢が存在感を見せている。日本勢の採択件数は、京都開催の昨年より減少したものの採択率は38%と地域・国別ではトップ。ただし、先端半導体を研究する大学や企業の数が数えられるほどに減少している点が懸念される。濱田氏は「日本は論文投稿数は多くないが一定の質を維持しており、全体平均を上回る採択率を保っている」と説明している。

  • VLSIシンポジウムにおける国・地域別採択論文数の推移

    VLSIシンポジウムにおける国・地域別採択論文数の推移

このほか、Late News(締切後に投稿された緊急性の高い論文)へ18件の応募があったが、採択されたのは2件のみであることも明らかにされた。

基調講演は、TI、デンソー、NTT、Movandiの4件

今年の基調講演は、「エッジAI」「モビリティ革命」「ワイヤレス技術」「IOWN」をテーマに以下の4件が開催される。

  • 「Making Sense at the Edge(高機能センシングとエッジにおける高効率情報処理)」:Texas Instruments SVP/CTOのAhmad Bahai氏
  • 「Mobility Evolution:Electrification and Automation( モビリティ革命:電動化と運転自動化)」:デンソー シニアディレクタの松ケ谷和沖氏
  • 「Wireless and Future Hyperconneted World(ワイヤレスと将来のハイパーコネクテッドワールド)」:Movandi CEO/Co-FounderのMaryam Rofugarans氏
  • 「Photonics-Electronics Convergence Device to Accelerate IOWN(IOWNを加速する光融合デバイス)」:NTT研究開発担当役員IOWN総合イノベーションセンタ長の塚野英博氏

デバイス・プロセステクノロジーと回路設計の融合をめざすジョイント・フォーカスセッションは、最先端のデバイス技術と回路設計の協調を目指した以下のようなセッションが予定されている。

  • Memory-centric computing for LLM(LLMのためのメモリー主導型コンピューティング)
  • Thermal Management & Power Delivery in 3D integration(3次元インテグレーションにおける熱設計と電源供給)

また、国際会議では議論されることの少ない技術分野を集中的に取り上げて深堀するワークショップでは、以下の5テーマがとりあげられる予定である。

  • “Advancing SoC Design:Open-Source and ML-Driven Approaches in the Cloud”(EDAやチップレットを含むオープンソース設計)
  • “3D Integration for RF and Analog”(RFとアナログの3次元インテグレーション)
  • “Novel Metals for Advanced interconnect”(先端配線に向けた革新的な金属材料)
  • “High Performance mixed-signal circuits:recent art in balancing analog vs. digital”(ミクスドシグナル回路におけるアナログとデジタルをバランスをとるための最新技術)
  • “Biosensor Breakthrough:Pioneering the Future of Health Tech”(ヘルステックの未来を開拓するバイオセンサーにおけるブレークスルー)

さらには、AIをテーマにしたパネル討論や生成AIを利用したゲームショーも開催されるほか、最終日の20日にはランチョントークとして、米国商務省Chips R&DのGreg Yeric氏が「CHIPS法案とグローバル半導体エコシステムへの影響」と題した講演を行う予定となっている。

また、一般講演では、200件を超える先端技術発表がimec、Intel、Samsung、TSMCなどの先端半導体企業や台湾・陽明交通大学、中国・清華大学はじめ世界のトップクラスの大学から行われる予定となっている。