みんな、コンピューターに話しかけてるか?

もし電源の入ってないパソコンや、どこにも繋がってないスマホに延々話しかけているとしたら然るべき施設への相談が必要だが、最近は話しかけると答えてくれるコンピューターもある。Siriとかそういうやつだ。

まず「聞こえているのに無視」という行動をとらないだけでも人間より優れているし、優しい。返答も「そっすね」以外のバリエーションも言うというのだから恐れいった。

長年壁や小石に話しかけてきた我々にとってはそれだけで感涙ものだが、さらにその「会話型UI(ユーザーインターフェイス)」を進化させようとしているらしい。今回のテーマはそれである。

ひとりひとりに合った"程度"で対話

どう進化させるかというと、「よりパーソナル化する」と言うことらしい。おそらく今、読者全員(3人)が「どういうことだ、馬鹿にもわかるように説明しろ」と机を叩き壊したと思うが、まさにそういうことだ。

UIが会話の相手の特性を理解し、それに応じた返答をするようにするのだ。使用者の理解力が低い場合、理解できるような言葉を使って返答してくれるというわけである。つまり「こいつは馬鹿だから馬鹿にわかるように説明しよう」とUIが判断してくれるのである。

よって、UIが「何かとバナナを使って例えてくる」「3以上の数字はたくさんと言ってくる」という場合は、IQを相当低く見積もられていると考えていいだろう。

また個々の会話だけでなく、前に話したことを関連付けて考えてくれたり、ジェスチャーや表情なども考慮してくれたりと、よりコンピューターが人間に合わせた返答をしていくようにするのが、パーソナル化していくということらしい。

つまり「夕食どこで食べたらいいか」とUIに訪ねると、前に勧めた店とは別の店にしようと配慮した上で、さらに表情から「どこにしたらいいと聞いてはいるが、こいつはもうトンカツで決まっている顔をしている」と読み取る。そうした情報を総合的に判断し、おいしいトンカツ屋を紹介してくれたり、あるいは「貴様ごときに食わせる肉はない、干草でも食ってろ」と判断されれば、近場の牧場を紹介してくれたりする日がくるかもしれないというわけである。

会話に必要な進化とは

「店を探してくれ」など目的あっての会話なら、それだけできれば上出来であるが、無目的な会話、完全に「話し相手」としてUIを使う場合はもっと進化する必要があるだろう。

一問一答でないものの例として、「尻から腸が出てるけど、どうしたらいい?」とsiriに聞いたとして(シリだけに)、ベストアンサーは「こっちに聞く暇があったら救急車を呼べ」だが、次点としては「良い肛門科情報をくれる」である。ここで間違っておいしいパンケーキを出すカフェ情報などを出されたら命に関わる恐れがあるため、情報の正確性が求められる。

しかし、会話というものは必ずしも正しい答えが求められているわけではない。むしろ、正しい方が怒られる場合がある。

例えば「痩せなきゃ…」とため息交じりに言う女の体形をUIが読み取り、その適性体重を明示したり、何故太っているのか、その女の生活の悪い点を指摘したりしたら、ブチ切れられるに決まっている。

今まではそう言うクソリプを返してくる相手が彼氏などだったから、女も首の骨を折るぐらいで済ませてやっていたのだ。それがコンピューター相手になるとさらに慈悲がなくなる。せっかくの最先端UIを積んだスマホがその場で粉々だ。

じゃあ「君は今のままでかわいいよ」など、真夏の水道水で溶いた片栗粉みたいなぬるいことを言えば良いかというとそんなことはない。「お前の好みなんて聞いてねえよ!」と怒られるのだ。このように、会話というのは大半「当たりがない」という、夜店のくじみたいなものなのである。

これからの会話型UIに必要な「力」

では、話し相手としてUIが人間を満足させることができないかと言うとそんなことはない。何と答えればいいかというと、冒頭で言った「そっすね」である。それだけで間を持たせるのは厳しいので、「マジすか」も使っていい。

人が会話に求めるのは「気分の良さ」だ。「相手が自分の話に興味津々」「感心してくれている」ということが伝われば、ボキャブラリーすら必要ないのである。

もちろん、棒読みでそう言えばいいというわけではない。TPOに合わせた「マジすか・そっすね使い」が必要だ。

相手が驚いて欲しいときは「マジッすかーー!?」シリアスな時は「マジッすか…」そして最終的に「そっすね!」でキメれば、相手は「俺はおもしろい話をした」といういい気分に慣れるのだ。

つまり、会話目的のUIに求められるのは正確性でも語彙でもない、すべての人間を持ち上げ気持ちよくする「後輩力」だ。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年12月27日(火)掲載予定です。