レノボ・ジャパン(レノボ)と大阪教育大学は4月16日、先端技術を活用して日本の教育の高度化に向けた包括連携協定を締結した。両者は教育や研究などの分野で協力し、教員の人材・ITリテラシー不足といった教育課題の解決を目指す。レノボが大学と教育関連で包括連携協定を結ぶのは今回が初。同社はメタバースを活用した学習支援や、デジタル人材育成などを通じてSociety5.0に対応した教育現場の実現につなげる。

  • 包括連携協定締結式の様子 左:レノボ・ジャパン 執行役員 副社長 安田稔氏 右:大阪教育大学 学長 岡本幾子氏(4月16日、大阪市天王寺区)

    包括連携協定締結式の様子 左:レノボ・ジャパン 執行役員 副社長 安田稔氏 右:大阪教育大学 学長 岡本幾子氏(4月16日、大阪市天王寺区)

「大阪から日本の未来の教育を変えていく」

大阪教育大学は、2024年で創基150周年、開学75周年を迎える日本有数の教員養成系大学。学生数(学部)は3943人(2023年5月1日時点)。設立以来、教員養成に携わり、教員就職者数で全国トップレベルの実績を持つ。2022年度の教員志望者における教員就職率は99.5%だった。

同大学は4月13日、大阪市との合築施設「みらい教育共創館」を天王寺キャンパスにオープンした。10階建てのみらい教育共創館は、新たな未来教育の創造を目指す産官学連携による共創拠点で、同拠点内に大阪市の総合教育センターや、レノボといった企業と協働する「産官学連携拠点フロア」が入っている。

  • 「みらい教育共創館」外観

    「みらい教育共創館」外観

  • 「産官学連携拠点フロア」内のオープンラボ

    「産官学連携拠点フロア」内のオープンラボ

また、さまざまな授業形態に対応した電子黒板、大型プロジェクターなどの先端機器、昇降型の机を導入した「未来型教室フロア」や、大学院生を中心としてさまざまな人材が集い学びあう「協働学習フロア」などもある。

  • 「未来型教室フロア」の教室

    「未来型教室フロア」の教室

  • 大学院生を中心としてさまざまな人材が集い学びあう「協働学習フロア」

    大学院生を中心としてさまざまな人材が集い学びあう「協働学習フロア」

「一つの拠点に産官学が集結することで、今まで以上に密でスピーディーな連携が期待できる。大阪から日本の未来の教育を変えていく」と、大阪教育大学 理事・副学長の鈴木剛氏は、16日の包括連携協定調印式で意気込みを述べた。

  • 大阪教育大学 理事・副学長 鈴木剛氏

    大阪教育大学 理事・副学長 鈴木剛氏

不登校児童は約30万人、メタバースで学習を支援

大阪教育大学と包括連携協定を結んだレノボは2024年度の取り組みとして、まず1つ目にメタバースを活用したインクルーシブな学習支援の実現を目指す。不登校児童や外国語を母国語とした子どもたちの多様な学び方に対応し、それぞれのペースに合わせた個別最適な学びの提供を目指す。

具体的には、レノボが提供する学習支援プラットフォーム「レノボ・メタバース・スクール(LMS)」を活用する。同プラットフォームは、GIGAスクール構想で配布された端末でも滑らかに動く3Dメタバースのバーチャル教室を実現。対面での学習が難しい児童や生徒も自分に合った形で学習を深められるとしている。

  • 「レノボ・メタバース・スクール(LMS)」イメージ

    「レノボ・メタバース・スクール(LMS)」イメージ

生徒は自身のアバターを自由に設定でき、笑う、怒る、泣くといった言葉以外のコミュニケーションも表現できる。アバターのリアクションにより、ガッツポーズや同感、戸惑いなど、意思と感情を直感的に伝えることが可能だ。基本的に会話はテキストチャットで行われるが、慣れてきたら音声で会話を行うこともできる。

また、LMSは日本語指導と不登校対策における専門家とも連携し、専門的な研修を受けた支援員が運用を行う。レノボ 教育ビジネス開発部 部長の外山竜次氏は「学びたいときに、学びたいことを、学べる環境を実現していく」と述べた。

小中学校における不登校児童生徒の数は急増しており、2022年度には約29万9000人に上り前年比で32%増えた。コロナ禍直前の2019年から10万人以上増えた。加えて、90日以上の不登校であるにもかかわらず、学校内外の専門機関などで相談・指導を受けていない小中学生は約4万6000人に上る。

  • 小中学校における不登校児童生徒の数は急増している 出典:文部科学省

    小中学校における不登校児童生徒の数は急増している 出典:文部科学省

不登校児童生徒が急増している背景について、外山氏は「多様性を尊重する風土が徐々に広がっており、不登校=ネガティブではないという考え方が浸透したからだと考えている。不登校が増えるのが悪いのではなく、増えた不登校の受け皿が少ないことが課題だ。メタバースを活用した教育は受け皿の一つになると考えている」と個人の見解を述べた。

レノボの新ラボ、デジタル人材育成と教員不足対策へ

レノボの2024年度の2つ目の取り組みは、デジタル人材の育成と教員不足への対策だ。

経済産業省は、このまま人材のスキル転換が停滞した場合、2030年にはIT人材が54万5000人不足すると試算している。政府は2024年度末までに年間45万人(大学・高専卒は年間17万人)の育成体制構築を目指している状況だ。

一方で人口減少に伴い児童生徒数も減少している。結果として1学校あたりの教員配置数が減少し教員不足が顕在化している。専門性を有する教科の教員も確保が難しく、地域によっては教育の質の担保が課題となっている。

これらの課題の解決に向け、レノボはみらい教育共創館の産学官連携拠点フロアに設けられたオープンラボに、デジタル人材育成を目指したスペース「Creative-Lab」を設置。専門教員不足を補う遠隔支援システムや高性能ワークステーションや3Dプリンタ、クリエイティブツールなど最新のデジタル機器を学校関係者が体験できる場所を提供する。

  • デジタル人材育成を目指したスペース「Creative-Lab」

    デジタル人材育成を目指したスペース「Creative-Lab」

具体的には、CADを使った製図・アウトプットや、高校の「情報I・情報Ⅱ」における学習、高いコンピュータ処理性能や高い画像解像度を必要とする学習を支援する環境を体験できる。

  • 専門教員不足を補う遠隔支援システム

    専門教員不足を補う遠隔支援システム

  • CADを使った製図・アウトプットができる3Dプリンタ

    CADを使った製図・アウトプットができる3Dプリンタ

  • 高性能ワークステーションも提供

    高性能ワークステーションも提供

加えて、半導体大手のインテルと連携し、教育委員会担当者や教職員、職員を目指す大学生向けのSTEAM研修を展開し、STEAM教育や探究学習を進める学校現場の支援につなげる。加えて、2025年度以降は教育委員会などと連携した実証を進める計画だとしている。

レノボ 執行役員 副社長の安田稔氏は「GIGAスクール構想でIT環境は整備されたが、多くの学校で、それを十分に利活用できていないのが現状だ。また、デジタル人材や教員不足も日本が抱える喫緊の課題。この場所でさまざまな実証を行い、子供たちがデジタルの力を発揮できるような未来の教育を支援していきたい」と意気込みを述べた。

  • レノボ・ジャパン 執行役員 副社長 安田稔氏

    レノボ・ジャパン 執行役員 副社長 安田稔氏