東北大学は4月4日、男性447名を対象に2年間(2008~2010年)追跡したコホート研究データから、AIによる食事パターンの分類を試み、高血圧発症リスクとの関連を検討した結果、「乳製品・野菜」と「肉」の2つの食事パターンは、「海産物とアルコール飲料」に比べて高血圧発症リスクが6割以上少ないことを明らかにしたと発表した。

なお、乳製品・野菜、肉、海産物とアルコール飲料などとあるが、これは食事パターンのことであり、それらの食品や飲料を摂取し続けた結果として高血圧のリスクが増加したり減少したりするものではなく、食事の組み合わせが重要であることも注意点として併せて発表された。

同成果は、東北大大学院 医工学研究科 健康維持増進医工学分野の永富良一教授、同・李龍飛大学院生、同・大学大学院 医学系研究科の稲田仁非常勤講師、同・門間陽樹准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学に関する全般を扱う学術誌「European Journal of Nutrition」に掲載された。

  • 非階層的クラスタリング法で得られた食事パターン

    非階層的クラスタリング法で得られた食事パターン。A:低タンパク・低食物繊維・高炭水化物、B:乳製品・野菜、C:肉、D:海産物・アルコール(出所:東北大プレスリリースPDF)

人集団を一定期間追跡し、疾病などの発症に寄与すると考えられる要因を持つ集団と持たない集団との間で、疾病の発症率などを比較するのがコホート研究である。これまでの食に関連するコホート研究では、食事因子の疾病リスクへの関与は栄養素に重点が置かれていた。その結果として、一般にもよく知られているが、塩分の摂取が高血圧(安静時収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上)のリスクと関連していることなどが明らかにされてきた。

しかし、食事はさまざまな栄養素の組み合わせで構成されるだけでなく、調理方法や、食事時間などの時間因子を含む複雑な生活行動である。これまで、心血管リスクの低下につながる地中海食や血圧をあげないDASH食などでは、「食事」に注目することが疾病リスクの軽減につながることが示されてきた。

ところが、食事を評価することはその複雑さから容易ではなかったという。これまでは、主成分分析や因子分析による食事の解析が行われてきたが、調理方法や食行動などを反映させることは困難だった。そこで研究チームは今回、それらも含む「簡易型自記式食事歴質問票」(BDHQ)のデータ解析にAI技術を用いることにしたとする。そして、質問票の回答から食事パターンの分類が行われ、検出された食事パターンと2年間の高血圧発症との関連を検討することにしたという。

  • AI食事パターンと高血圧発症のリスク

    AI食事パターンと高血圧発症のリスク(パターンDとの比較)(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、文部科学省 知的クラスター創成事業 広域仙台先進予防型健康社会創成クラスター事業の一環として、協同組合仙台卸商センター組合員の男性447名を、2008年から2010年まで2年間追跡したコホート研究データからAIによる食事パターンの分類が試みられ、高血圧発症リスクとの関連を検討。

BDHQに含まれる58の食品の1週間の摂取頻度、12の食行動、9つの調理方法のデータを、次元削減・可視化法の1つである「UMAP」で処理した後に、教師なし機械学習による非階層的クラスタリング法である「k-means法」で自動的な分類が行われた。

食事パターンはそれぞれの摂取頻度の高い食品から、「海産物とアルコール飲料」、「低タンパク・低食物繊維・高炭水化物」、「乳製品・野菜」、「肉」の4種類に分類された。2年間の追跡期間中の高血圧症の発症は、「海産物とアルコール飲料」に比べて「乳製品・野菜」および「肉」パターンは、いずれも高血圧の発症リスク(オッズ比)が6割以上小さくなることが確認された(オッズ比が1以上だとリスクが増加となり、1未満だとリスクは低下となる)。

今回の研究は、食事のような複雑な生活行動であっても、AIによる解析により健康との関連を明らかにできることを示せたことも重要だとする。今後、さまざまな手段で集積されている健診や、Personal Health Record(個人の健康・介護情報を集約した生涯型電子カルテ)のデータ解析への応用が期待されるとしている。