国立がん研究センター(国がん)は、新たに発足したがん対策研究所の横断的プロジェクトとして、ヒトパピローマウイルス(HPV)による持続感染が原因で発症する子宮頸がんについてのファクトシートを公開し、HPV関連がんについて科学的根拠と日本の現状に関する説明会を開催した。

同説明会に登壇したのは、国がん がん対策研究所 副所長の井上真奈美氏、同じくがん対策研究所 データサイエンス研究部部長の片野田耕太氏、同 がん対策研究所 検診研究部部長の中山富雄氏。

  • 国がんの井上氏、片野田氏、中山氏

    左からHPV関連がんに関する説明を行った井上氏、片野田氏、中山氏

子宮頸がんに対する日本の現状

HPVは性行為などにより生じた皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し皮膚や粘膜の上皮細胞に感染するとされ、子宮頸がんの95%以上は子宮頸部でのHPVの持続的な感染が原因で発症するといわれている。また、HPVは感染しやすい性質をもつため、性交経験を有する人の大半が生涯に一度はHPVに感染するとされており、その予防は重要なものとなるという。

実際、日本では年間約1万人以上の女性が子宮頸がんと診断され、約3000人がそれが原因で死亡している現状がある。これは、子宮頸がん罹患率・死亡率とともに、米国や西欧、オーストラリア、韓国よりも高い割合となっている。

  • 国別の子宮頸がん年齢調整死亡率の年次推移

    国別の子宮頸がん年齢調整死亡率の年次推移(出所:国立がん研究センター)

日本のHPVワクチンを取り巻く過去と現在

この子宮頸がんの1次予防方法として、日本を含む多くの国で採用されているのがHPVワクチンだ。このHPVワクチンは既感染者からウイルスを排除する効果はなく、摂取対象の年齢が上がると予防効果も十分に得られないため、性交渉開始前の年齢でワクチンを接種することが重要だとされている。

日本では現在(2023年4月時点)、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象に2価・4価・9 価HPVワクチンの定期接種が実施されているが、2013年から2021年までは、HPVワクチン接種後さまざまな局所および全身の副反応症状が報告されたことを受け、定期接種の積極的勧奨が控えられてきた経緯もあり、HPVワクチンの接種率は2000年度生まれの人から大幅に低くなっている。

  • 日本のHPVワクチンの接種率

    日本のHPVワクチンの年度別接種率(出所:国立がん研究センター)

しかしこれまでの間、HPVワクチン接種への不安やさまざまな症状に対処する地域ブロック拠点病院を中心とした医療連携体制、相談体制および報告・救済制度が設けられるなど取り組みが進められてきており、2022年よりHPVワクチンの積極的勧奨が本格的に再開されている。

また、積極的勧奨が控えられてきた期間に接種対象であった1997 年度生まれ~2006年度生まれの女性に対しても、2022年4月から2025年3月までの期間にわたり公費でのHPVワクチン接種(キャッチアップ接種)が行われている。

接種管理体制の脆さと検診に対する意識の低さ

世界的にみて日本は子宮頸がん罹患率・死亡率が高く、対策が遅れている理由について片野田氏と中山氏によると、「ワクチン摂取および検診の管理体制の脆さ」と「検診に対する意識の低さ」の大きく2つの点が挙げられた。

まずは管理体制について。オーストラリアでは、個々人の予防接種登録、がん検診に関する情報が連邦法に基くNational Cancer Screening Register(NCSR)で一元的に管理。データに基づく事業の管理・運営からエビデンスに基づいた政策・プログラムの策定までが可能であり、2035年までに子宮頸がんを疾患率4以下(人口10万対)にできると予想されている。また、アメリカやイギリスをはじめとする英連邦系でもある程度の管理体制が整っているとされている一方で、日本では十分な管理体制が構築されていないという。

  • オーストラリアの子宮頸がん対策を支える仕組み

    オーストラリアの子宮頸がん対策を支える仕組み(出所:国立がん研究センター)

日本でも2022年からのHPVワクチン積極的勧奨再開を機に、HPVワクチン接種の未完了者を抽出しキャッチアップの案内を送付するといった取り組みを行った自治体もあるというが、一方で、5年経過後は摂取歴を廃棄しても良いとされる法律があることから、機械的にそうした情報を廃棄してしまった自治体も報告されており、未完了者をすべて把握できていないのも課題だという。

そういった背景もあり、「ワクチンの摂取歴」と「検診の摂取歴」が管理できる仕組みづくりが必要だと強く主張。新型コロナウイルス感染症によってワクチン接種のシステムがある程度日本でも構築されつつはあるが、検診についてはまだ進められていないとし、統一的に管理できる仕組みがあれば状況の改善が見込めるとのことだ。こうしたしっかりとした管理体制が構築されると、2年ごとの検診時期を対象者それぞれに個別に知らせることができたり、各個人の検査結果に応じた異なるタイミングの精密検査とフォローアップに対応することができるようになるため、検診率も上がるのではないかと考えているという。

また、その検診については、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象としたHPVワクチンの定期接種が実施されるようになったが、子宮頸がんの罹患率は20代~40代、死亡率は30代・50代で有意に増加しているとされている。つまり、これはワクチンを摂取してから何十年か経った後でしかワクチンの効果はわからないということであり、フォローアップ世代はワクチンの効果も年々薄くなっている現状もある。さらに、ワクチンで予防できないタイプのHPVの型もあるため、ワクチンの接種で終わらせるのではなく、その後の定期的な検診の重要性も示したいとしている。

  • 罹患率・死亡率とも若年層で顕著に増加している

    罹患率・死亡率とも若年層で顕著に増加している(出所:国立がん研究センター)

なお、今回の発表においては男性のHPVワクチン接種にも言及されているものの、とにもかくにもまずは女性のワクチン接種率および検診率が安定的に上昇していくことが最重要であるとしている。とはいえ、現在までにHPVワクチンの接種率は十分に回復しておらず、子宮頸がん検診の受診率も低いままであり、子宮頸がんの減少につながっていない状況が続いているのが日本の実情だ。がん対策研究所では、今後もこれらの課題解決に向け国や自治体とも連携し、日本における子宮頸がんの減少に貢献していきたいとしている。