パデュー大学の研究チームは、ペロブスカイト系材料を用いた薄膜太陽電池で、変換効率60%超を実現できる可能性があるとの研究成果を報告した。従来のシリコン太陽電池では発電に利用することが困難だった「ホットキャリア」と呼ばれる高エネルギーの電荷を利用できるようになるため、変換効率の大幅な向上が期待できるという。研究論文は、科学誌「Science」に掲載された。

無機材料(ヨウ素、鉛)と有機材料(メチルアンモニウム)がハイブリッドされたペロブスカイト材料の構造(出所:パデュー大学)

シリコン太陽電池の変換効率には「ショックレー=クワイサー限界」と呼ばれる理論限界があり、単接合の場合、およそ33%が変換効率の上限であるとされる。変換効率が制限される理由はいくつかあるが、その1つとして、高エネルギー状態の電荷であるホットキャリアの寿命が極めて短いため、ホットキャリアのエネルギーを太陽電池外部に電流として取り出す前にエネルギーが熱に変換され失われてしまうという問題がある。

太陽電池のバンドギャップを超えるエネルギーをもった光が入射すると、電子(マイナスの電荷)または正孔(プラスの電荷)が高エネルギー状態に励起して、ホットキャリアが生成される。しかし、シリコン太陽電池の場合、ホットキャリアの寿命は1ピコ秒(10-12秒)程度と極めて短く、その間にホットキャリアが移動できる距離は最大でも10nm程度しかない。このため、ホットキャリアのエネルギーは電流として外部に取り出すことができず、太陽電池の内部で熱に変わってしまう。

研究チームは今回、レーザーを用いた超高速過渡吸収顕微鏡法という手法で、ペロブスカイト薄膜(ヨウ素、鉛、メチルアンモニウムのハイブリッド材料)におけるホットキャリアの動きと速度の測定を行った。その結果、ペロブカイト薄膜では、ホットキャリアの寿命が100ピコ秒程度まで伸び、その移動距離が200nm超に達することを確認したという。

超高速過渡吸収顕微鏡法で測定したペロブカイト薄膜におけるホットキャリアの画像。熱に変換される前に200nm超の距離を移動できる(出所:パデュー大学)

このことは、ペロブスカイト系薄膜太陽電池においては、ホットキャリアの移動距離が太陽電池の膜厚以上になるため、電流として外部に取り出せる可能性があることを意味している。ホットキャリアを利用した場合の太陽電池の変換効率は60%以上になり、従来のシリコン太陽電池の理論限界のおよそ2倍の値まで向上できることになる。

研究チームは、次の研究課題として、ホットキャリアを外部回路に抽出するための適切な電極材料・構造の開発を挙げている。また、商用化を考えたときには、ペロブスカイト薄膜で使用されている鉛を、より無害な他の材料で代替する必要がある。