大阪公立大学(大阪公大)は4月5日、ポスト・リチウムイオン電池(LIB)として、より資源量が豊富なナトリウム(Na)を用いる全固体ナトリウムイオン電池(SIB)の量産化に向け、「多硫化Na」(Na2Sx)の不揮発性に着目し、それを原料と反応媒体としての機能を兼ね備える「セルフフラックス」として利用することで、Na含有硫化物の量産性の高い合成プロセスを開発したことを発表した。

また今回のプロセスを用いることで、実用化に必要とされるイオン伝導度の約10倍である10-1Scm-1を超える、世界最高レベルのNaイオン伝導度を有する硫化物固体電解質「Na2.88Sb0.88W0.12S4」や、高い耐還元性を有するガラス電解質「Na3BS3-SiO2ガラス」の合成に成功したことも併せて発表された。

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の奈須滉大学院生(現・北海道大学大学院 理学研究院 助教)、同・音野智哉大学院生、同・本橋宏大助教、同・作田敦准教授、同・林晃敏教授らの研究チームによるもの。詳細は2本の論文として、エネルギーの貯蔵とそのための材料に関する全般を扱う学術誌「Energy Storage Materials」と、米国化学会が刊行する無機化学に関する全般を扱う学術誌「Inorganic Chemistry」に掲載された。

埋蔵量の少ないリチウムに依存しないポストLIBの1つとして期待されるSIBは、すでに中国において電気自動車に搭載されており、実用化の域に達している。しかし、それらは電解質として有機電解液を利用しているため、現行LIBと同様に発火の危険性を抱えている。そこでその危険性を払拭し、なおかつ低コスト化も期待できるとして、全固体SIBの研究が進められている。その実用化に向けては、固体中をNaイオンが高速に移動できる固体電解質材料が必要不可欠だ。

しかし、高いNaイオン伝導度を有する硫化物固体電解質は、出発原料が高温領域において高い蒸気圧を有するため硫黄が欠損しやすく、作製には密閉系の熱処理やメカノケミカル処理が必要であることから、大量合成が困難と考えられていた。また、高いイオン伝導度が期待されるNaを多量に含む硫化物ガラス電解質を作製するためには、さらに急冷操作が必要となり、その点でも大量合成に課題を抱えているのが現状だ。こうした背景から、全固体SIBの社会実装には、量産性の高い硫化物固体電解質の合成プロセスの開発が求められていた。

そこで研究チームは今回、Na2Sxの不揮発性に着目し、それを原料と反応媒体としての機能を兼ね備えるセルフフラックスとして利用する、Na含有硫化物材料の新たな合成プロセスを開発したという。

  • 今回の合成プロセス

    Na2Sxをセルフフラックスとして用いた、今回の合成プロセス(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

Na2Sxは高温領域でも融液であるため、高温熱処理を行っても硫黄の揮発を抑制できるとする。そして、このNa2Sx融液と、シリコンやホウ素のような単体元素を反応させることで、目的のNa硫化物材料を非密閉系でも合成可能であることが見出されたとしている。

次に、開発されたプロセスを用いて、耐還元性に優れるNa3BS3ガラス電解質や高いNaイオン伝導度を有するNa2.88Sb0.88W0.12S4の合成が行われた。特に、Na2.88Sb0.88W0.12S4は、室温で1.25×10-1 Scm-1のイオン伝導度を示し、アルカリ金属イオン伝導体で初めて、室温で10-1Scm-1を超えるイオン伝導度を持つことが実証されたとのこと。この値は、研究チームが2019年に発表した同物質のイオン伝導度の約3倍であり、今回のプロセスを用いることで、より優れた特性を示す固体電解質を合成することに成功した形だ。

  • 今回の研究と2019年の研究で合成されたNa2.88Sb0.88W0.12S4のイオン伝導度

    今回の研究と2019年の研究で合成されたNa2.88Sb0.88W0.12S4のイオン伝導度(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

また、今回のプロセスで作製されたNa3BS3ガラスとNa2.88Sb0.88W0.12S4を固体電解質に用いた全固体SIBは、300サイクルにわたり安定に作動することも確認したという。

さらに、今回のプロセスを用いて、Na3BS3にSiO2を少量だけ添加した組成では、通常は急冷操作が必要な高アルカリ含有ガラスを徐冷のみで作製できることも見出したとのこと。作製されたガラスは、SiO2添加前のNa3BS3ガラスと同様のイオン伝導度を示すため、より簡便な手法で耐還元性とイオン伝導度に優れるガラスが作製できるとした。

今回の研究成果は、より高いイオン伝導度を有する新物質の探索やNa含有硫化物正極活物質の合成に応用可能であり、全固体SIBの実用化に向けて大きく貢献することが期待されるという。研究チームは今後、もう1つの主要課題である正極と固体電解質の界面の抵抗の低減に取り組むとしている。