自治体と連携する理由

現在運営中のサイクルシェアリング事業は、いずれもドコモ自身がスタートさせており、ドコモ・バイクシェアはそれを引き継いだ形になる。どうしてドコモ自身が取り組まずに新たに法人を作ったのだろうか。これについて坪谷社長は「いろいろな考え方はありますが、独立した法人でいるほうが、さまざまなアライアンスが素早く行えるという考えからの決定でした」と語る。自転車の選定・調達や付帯サービスの開発、事業者との提携交渉などは、小回りがきく小さな組織のほうがいいということなのだろう。

こうしてスタートしたサイクルシェアリング事業の最初の案件は、2011年4月に横浜市が社会実験としてスタートした「横浜コミュニティサイクル baybike」だった。以来、4年をかけて東京都中央区、千代田区、港区、江東区、仙台、神戸、広島など全国の都市でサイクルシェアリング事業を展開してきた(期間限定で実施する都市もある)。「サイクルシェアリング事業はすべて、自治体が事業の主体になっています。我々は入札を通し、運営や付帯事業を提案し、自治体から運営事業者として選定されて運営にあたっています」。

サイクルシェアリング事業の事業スキーム。NTT都市開発の自社不動産の活用などNTTグループの強みも生かしている(出展:ドコモウェブサイトより)

サイクルシェアリング事業だけでみれば、民間で実施している会社もあるが、なぜドコモは自治体と組むのだろうか。「自転車の利用に際しては、様々な規制緩和や公的資源の利用許可が必要です。特に安全にお客様にご利用いただくための走行空間の整備や、公有地のポート利用は基本的に自治体主体で行われるものです。また、お客様、歩行者も含めた安全を第一に考えていかなくてはいけません。自転車を貸すインフラを整えるだけではなく、マナーの普及・啓発にも取り組む必要があります。その意味でも、民間で自由にインフラを展開していくのではなく、行政としっかり連携していくことを当初から考えておりました」。

会社の成長だけを考えれば、スピード感を出してどんどん事業展開していきたいところだが、社会インフラであり、環境ビジネスである責任もあり、じっくりと腰を据えて実直に、地道に進めていくしかないというわけだ。

そのため、ドコモ・バイクシェアではサイクルシェアリング事業とは別に子供向けの交通安全教室や、ヘルメットの無料配布を行うなど啓発活動を通じて、自転車利用の安全喚起と、サイクルシェアリングへの理解度を深めようとしている。