前述した多数のセンサを用いてPatinはユーザーに近寄ってきてくるといった適切なポジショニングをしてくれるわけだが、そうした各種センサによる空間認識の人の動きに関するデータはピットを経由してクラウド上で多数のPatinからのものを集約して蓄積し、動作精度向上のために解析され、その上でPatinにアップデートしたデータを配信するという仕組みも用意される。

スタンドアローンの自律型ロボットではなく、クラウドと連携したスマートロボットであり、ユーザーの生活行動によりフィットした自律行動として常に成長する仕組みを持っているというわけだ。使えば使うほど、またユーザーが増えるほどPatinは賢くなり、家庭内のさまざまな機器がまるでペットのように接してくれるようになるのである。

そしてビジネスモデルを含めた今後の話だが、3つの基本構想があり、1つ目が、Patinを中心としたサービスロボットのプラットフォーム型のビジネス。2つ目が、サードパーティ企業がサービスユニットを開発できる開発キット(SDK)を提供するビジネス。そして3つ目が、クラウドと連結したスマートロボット市場への参入、という具合だ。

もう少し詳しく説明すると、1つ目はスマホや家庭用ゲーム機、PCなどのイメージだ。要はプラットフォームとして提供し、その上で使えるアプリケーションとして各種サービスユニットをサードパーティと共に作っていくというものである。2つ目は、1つ目を実現するため、サードパーティ各社がサービスユニット開発に参入しやすいようにするというもの。マーケットの形成と拡大には多数のサードパーティが参加することが必須のため、それを促すための仕組みとしてSDKを提供するというわけだ。3つ目は、クラウドを活用したソフトウェア(アプリケーション)的なサービスである。Patinを端末のようにできるサービスユニットを用意すれば、コンテンツを配信するような仕組みなども考えられるわけだ。

なお、参加が想定されるサードパーティとしては、家電、オーディオビジュアル、家具、ヘルスケア、食品、コミュニケーションロボット開発、さらには個人ユーザー、研究者、技術者などが挙げられる。松井氏は、同社だけで何かをしていこうという考えではなく、なかなか市場が形成されないサービスロボットを、21世紀の新しい産業に育てていくことも重要なコンセプトとしており、より多くの企業や個人に参加してもらいたいことからこのような仕組みを作ったという。要は、PCやスマホのような市場の形成を目指しているわけだ。

このPatinの普及と市場形成および拡大のポイントとなるのは、サードパーティの参入数の増加と、それに伴うサービスユニットのラインナップの充実であることは誰もがわかるだろう。そのことから、サードパーティ各社がサービスユニットの開発により参入しやすいようにするため、SDKをオープンソースのスタイルで開発し、特にサービスユニット接続のためのインタフェースの開発に力を入れていくとしている。

これは、インタフェースをより使いやすいものとすることで、サードパーティ各社が持っているロボットのアイディアをより実現化しやすくするのが狙いだ。サードパーティ各社はPatinのサービスユニットの開発にのみ注力でき、AIや移動ロボット本体の開発には労力を割かなくて済むようになるのである。現状、サービスロボットの開発は複数の難題があって、アイディアや技術はあっても「どこから手を着けていいかわからない」という企業が多い。そこで、サードパーティ各社が自社コンテンツをPatinにアダプトできるようにすることだけを考えればいいようにし、参入を促進するのである。

インタフェース用のOSとしてはAndroidを採用し(Patin本体のOSにはLinuxが採用されている)、サードパーティ向けのSDK(シミュレータも用意)は2015年の提供を目指して開発中だ。ちなみに、Patinのプロジェクトは2013年にスタートし、会見を開いた時点でまだ1年に満たないそうだが、この段階でコンセプトとプロトタイプの発表を行ったのは、各種新技術の特許出願を行っていることからその点で問題ないこと、そして少しでも多くのサードパーティに興味を持ってもらいたいという狙いがあるからである。

そして製品版の開発並びに発表(発売開始)は2016年を目指しており、正確な発売時期や価格などは未定だ(発売は2016年末になる可能性が高いという)。価格が未定なのは、スペック的なものもまだ変動することが考えられるし、量産する台数によって単価が大きく影響を受けるのが確実だからだ。また、量産を依頼する企業(工場)や販売代理店などはこれから決定する予定だという(画像19)。

ただしPepperが約20万円と発表されているので、それがサービスロボットの価格の標準となる可能性があることから、マーケット的にその前後である必要はあるだろうとしている。ちなみにその値段で1万台しか売れないとなると開発費を回収することは不可能なので、もっと台数が売れる規模の市場を形成する必要はあるとした。

画像19。製品化へのロードマップ

今回のPatinの開発に関するフラワー・ロボティクスの体制は画像20の通り。外部企業と業務提携をしてチームを作っているという。ハードウェア開発チームがメカ設計、電機部品選定・システム構成図の作成、システム構築/制御設計の3部門で、ソフトウェア開発チームがクラウド開発とAI開発の2部門となっている。ハードウェアの3部門に関してはそれぞれの技術力のある企業と組んで開発が進んでいる具合だ。AI開発はスペシャルチームを編成し、松井氏曰く「かなり面白いプログラムを考えています」という。クラウド開発に関しては現在提携企業を選定中で、チーム編成はまだで、もう少しかかるとした。

画像20。開発チーム体制

ちなみに、会見で披露されたPatinのイメージビデオが動画1。黒いパーツがある側がPatinの前部なのだが、ここには小型の液晶モニタがあるようで、タッチして切り替えるらしいAIモードには「Deep learning(詳細学習)」、「Fuzzy(大まか)」、「Probability(見込み)」の3種類が表示されていた(この3種類や、表示方法が製品版で採用されるかどうかは未定)。

また、会見後半の質疑応答において、筆者がサービスロボット用の国際安全規格「ISO13482」への対応を質問したところ、製品版に関してはもちろん今後予定しているという返事。ただし、基本的に家庭内で使うことを前提としているロボットなので、家電の扱いでいくかもしれないとしている。

そして同社は今後、2014年以降はソフトバンクのPepperもあり、スマートロボットの市場が拡大していくと思われるので、その拡大の一翼を担いたいという。現状、スマートロボットはテクノロジーのトレンド曲線としてみた時にまだ黎明期ではあるが、来年以降伸びてくることが予想されているので、マーケットを作ることと技術を開発していくことに関しては今が非常に重要な時期でだとした。なお、フラワー・ロボティクスではパートナー企業を募集しているので、サービスユニット開発などで興味のある企業は、ぜひPatin特設サイトからコンタクトしてみてほしい。最後に、スペックも一覧表にしてまとめておく。

  • サイズ:全長340mm×全幅330mm×全高193mm
  • OS:Linux
  • モータ:DCモータ
  • バッテリ:リチウムイオン電池
  • メインCPUボード:Jetson TK1
  • 制御用ボード:Arduino
  • センサ:深度カメラ、熱画像カメラ、単眼カメラ、落下防止センサ、障害物検出用センサ、接触センサ
  • 外装素材:硝子入りナイロン(粉末造形)
  • そのほか:Wi-Fi、USB、アダプタ