川崎重工業(川重)は開催中の「2023国際ロボット展」において、等身大ヒューマノイドロボット「Kaleido」(カレイド)の最新バージョンを公開、災害時の避難所を想定したデモを行っていた。Kaleidoは、「転んでも壊れない」タフさを目指し、同社が開発しているもの。今回披露されたバージョン8では、タフさがさらに向上したという。

  • 「Kaleido」のデモ

    「Kaleido」のデモ。人間との協調作業も披露した

バージョン8のKaleidoはどこが変わった?

2足歩行は、どうしても転びやすい。等身大サイズであれば、転んだだけで壊れることが多く、社会実装において、それが大きな課題となっていた。Kaleidoは、シリーズ名の「RHP」(Robust Humanoid Platform)が示すように、ロバスト性を追求している。将来的には、災害現場などでの活用も想定しており、パワーの強さも併せ持つ。

2017年の国際ロボット展で初めて公開して以降、バージョンアップを重ね、今回はバージョン8に進化。全身の自由度は32軸、身長は約180cm、体重は約86kgで、全体的に前バージョンから大きな変更は無いが、腰関節や肘関節など、直動型モーターの採用を増やしたことで、より壊れにくくなっているという。

  • 2017年に初登場した機体

    2017年に初登場した機体

  • 2019年のバージョン6

    2019年のバージョン6

  • 2022年のバージョン7

    2022年のバージョン7

  • 2023年のバージョン8

    2023年のバージョン8

  • 腰は左右にリンクが見える

    腰は左右にリンクが見える。これでヨー軸とピッチ軸の回転を実現した

  • 見えにくいが、肘にもリンク

    見えにくいが、肘にもリンク。直動型モーターは上腕の内部に仕込んだ

前述のように、将来的には災害現場で活用することが期待されているものの、そのハードルは高い。今回のデモで、災害現場ではなく、避難所を選んだのは、より早く実用化できそうなシーンを考えた結果だという。

バージョン8の外観で大きく変わったのは頭部だ。プロジェクタを内蔵しており、顔を表現できるほか、状態を表示するようなことにも使える。避難所のように周囲に人がいる環境では、表情で与える印象を柔らかくしたり、周囲に意図を伝えやすくすることも重要だろう。

  • 頭部にはプロジェクタを内蔵

    頭部にはプロジェクタを内蔵。表情を自由に変えられる

デモは、トラックから救援物資を運び込むイメージで行われた。まず、途中の障害物を除去。続いてテーブルを人間と一緒に設置し、荷物を運んでそのテーブルの上に置いた。デモの一連の流れは、以下の動画や写真を参照して欲しい。

  • まずは障害物を除去

    まずは障害物を除去。狭いところは横歩きで進む

  • 不整地にも対応

    不整地にも対応。アルミ材を踏んでも転ばない

  • ハンドでゴミ袋を持つ

    ハンドでゴミ袋を持つ。最後は豪快に投げ捨てる

  • テーブルを運んだ後、足部分を踏んで引っ張り上げる

    テーブルを運んだ後、足部分を踏んで引っ張り上げる

  • 階段を上り、まずは中段から荷物を引き出して運ぶ

    階段を上り、まずは中段から荷物を引き出して運ぶ

  • 帰り道には両手でバケツを持つ働き者のKaleido

    帰り道には両手でバケツを持つ働き者のKaleido

  • 次は上段の荷物を持つ

    次は上段の荷物を持つ。さっきと持ち方が違う点に注目

  • 最後に忘れ物が無いか確認するKaleido。ヨシ!

    最後に忘れ物が無いか確認するKaleido。ヨシ!

Kaleidoのデモ。基本的には自律で動いており、たまに補正をかけているとか

隣のブースには全身ブラックのKaleidoも!

川重ブースの隣には、人機一体のブースがあったのだが、注目したいのは、そこで展示されていた「零一式カレイドver.1.0」。これは、Kaleidoをベースに、同社がカスタマイズしたものだ。機体を受け取ってからわずか1カ月しかなかったそうだが、頭部を換装したほか、制御プログラムを独自のものに書き換えたという。

  • 人機一体の「零一式カレイド」

    人機一体の「零一式カレイド」。樹脂の外装がブラックになっている

人機一体は、同社のほかのロボットと同様に、バイラテラルのマスタースレーブ制御をKaleidoに実装、隣に置いたコクピットから、遠隔操縦できるようにしていた。零一式カレイドの頭部にはカメラを搭載。操縦者のヘッドマウントディスプレイと連動しており、操縦者はロボットになったような感覚で、簡単にロボットを制御できる。

  • 零一式カレイドの頭部

    零一式カレイドの頭部。双眼のカメラ、スピーカ、マイク等を搭載した

  • 右側の大きな装置がコクピット

    右側の大きな装置がコクピット。操縦者は、初めて扱う学生さんだという

この「簡単」であることは、実際に使う上で、非常に重要な要素だ。操作に熟練の技術が必要なようでは、トレーニングに時間がかかってしまう。マスタースレーブなら、直感的な操作が可能。バイラテラルなので、ロボット側のアームが物体に接触すれば、それが操縦者側に伝わる。そういった感覚も、操縦には便利だ。

零一式カレイドのデモ。操縦者の動きがそのままロボットに伝わっている

ブースの零一式カレイドはハンドが外されていたが、ここには、用途に応じたツールを取り付ける予定。同社には、すでに電車の解体作業で使えないか、といった話も来ているという。古い車両にはアスベストが使われており、人間が作業するには防護装備が必要。ロボットが使えれば、そういった辛い作業から人間を解放できる。

なお、今回のデモでは、歩かせることは行っていなかったが、歩行制御については広島大学 機械力学研究室との間で共同研究を進めているとのこと。現時点ではまだシミュレーションベースなものの、今後、実機を使って検証する予定だ。