数10mを一気にジャンプできる技術!?

そして、超人と化してこの日吉キャンパスの上空何10mもの高さまでのスーパージャンプを堪能できたのが「Hiyoshi Jump」(動画8)。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンとの共同展示で、あらかじめ小型ヘリを用いて撮影された上空数10mまでのあらゆる高さにおける360度の日吉キャンパス上空の映像を利用して、うまくジャンプする動作を決めると(加速度センサが感知する)HMD内の映像がまるで本当にジャンプしたかのようにスムーズに上空まで飛んでいって見せてくれるというものだ。

視点の上下動は、きちんと重力加速度に従って滑らかに変わっていくので、本当にジャンプした感がある。しかも頭を振ると、ちゃんとその通りに左右上下に見える範囲が変化し、ブースはそれを計算して屋内からグラウンド側に面したテラスに出たすぐのところで構えていたので、肉眼で見るのと同じグラウンドも見渡せて(映像内の日照量は変化しないが)、そうした点でも本当に自分がジャンプしたような感覚を味わえたというわけだ。

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動画8。Hiyoshi JumpのHMDに投影されている映像と同じものを流しているノートPCの映像を撮影

最後は、稲見教授が以前から研究している、これは世界征服を企む悪の秘密結社が人間コントロール用にほしがりそうな(笑)、まさに「技術は正義にも悪にもなる」の見本のような一品、「GVS Human Controller」(画像30)。耳の後ろ辺りにパッドを貼り付けて(画像31)、微弱な電流を流してその電流によって前提感覚を誘発することで、人間のバランス感覚を操るという装置で、本人はまっすぐ歩いているつもりが右に左にコントロールされてしまうという(人間の意志をコントロールするようなそこまで恐ろしい技術ではない)。

視覚障がい者がうっかり車道に出てしまったりした時にそれを戻してあげるといった、もちろん平和利用を目的として研究されている技術で、スポーツでの応用としては、監督が選手に対して、声や身振り手振りなどで指示を出すのに加えて、直接移動方向を伝えるのに使うといった用途が考えられている。でも、なんだかブレインハッキング的な危ない香りのする技術なのだ。

画像30(左):GVS Human Controllerのパッド。画像31(右):ここら辺に貼り付けて使用する

このほか、同じくクワッドコプタのような低速度で安定して飛行できる近年のホビー用ヘリを使った、ハリー・ポッター・シリーズでお馴染みの魔法を使った競技「クィディッチ」のような、空中を自由に飛びながら楽しめる未来のスポーツとして提案されたのが「Flying TELUBee」だ。イメージとしては、カメラを搭載したクワッドコプタを何台も飛ばして、プレイヤーがそのカメラの視点でもって空を飛んでいるような雰囲気で競技を行うというものだろう。この時は、ちょっと調子悪くなってしまっていて、そのヘリがあまり飛べなかったので、残念だった。

また、最初に紹介した稲見教授の研究室+αの技術や、SUPERHUMAN OLYMPICの技術のほかにも、テクノロジー系のデモ展示は多数あり、ロボット系としては、「ときめく自動ドア」があった(動画9)。大人になると普通に何気なく通過してしまう自動ドアを、もっと通過する人にときめきや驚きを与えられるものにしようという研究で、今回の展示ではロボットハンドがついていた。握手すると開くという具合である。

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動画9。ときめく自動ドア。なんだか、JoJo第2部のザコ吸血鬼のワイヤード・ベックを思い出してしまう(笑)

「Techno-FUSION」のエリアにあった、サイコロが自ら転がって、決めた通りの目を出してくれるという「Box Rux」(動画10)や、効率的に風力を得られる帆の最適位置を帆そのものが可視化する(帆の上で光の色や点滅パターンなどの違いで表現する)ことで船の操縦を容易にする次世代ヨットの「Smart Sail」のコンセプト(画像32)なども興味深かった。

動画10。このサイコロがあればチンチロリンや丁半賭博、さらにはテーブルトークゲームなどで無敵だが、即イカサマだとばれるのが難点(笑)
画像32。人にとってなかなか風を読むのは難しいので、見える化技術はヨットにも応用可能

またAUGMENTED SPORTS SYMPSIUM(画像33)は、KMDフォーラムの中心研究者のひとりである稲見教授をコーディネーターとして、パネリストには同じKMDでメディア政策、ポップカルチャーなどを専門とする中村伊知哉教授、同じ慶応大の湘南藤沢キャンパスに所属する環境情報学部の加藤貴昭准教授、前述したソニーSCL製ロボット義足の開発者である遠藤研究員、クワッドコプタが追従するFlying Sports Assistantの東京大学の暦本教授、国立リハビリテーションセンター研究所 生涯工学研究部の小野英一部長、そして文部科学省研究開発局 開発企画課の内村幸喜課長の6人を迎えて行われた(画像34)。

ご覧の通り、かなり幅の広いメンバーである。とはいっても、さすがに2020年までの5年半という短期間で超人オリンピックを実現するというのはなかなか難しいところだが、文部科学省の官僚である内村氏や、国立リハビリテーションセンター研究所の小野氏らがいるところが興味深い人選ではないだろうか。実際、堅い話から夢のある話までなかなか面白い話し合いだったので、機会があれば、どのようなシンポジウムだったのかをお伝えしたいと思う。

画像33(左):AUGMENTED SPORTSのメインイメージ。プロアマの垣根をなくし、さらには老若や、男女の差別までなくせるのがAUGMENTED SPORTSだ。画像34(右):シンポジウムの様子

というわけで、KMDフォーラム、いかがだっただろうか。慶応大学の、しかもその大学院の1学科でしかないKMDだけで、すべてを見て回るには丸1日は少なくとも必要な展示物の数があり、さすがは慶応大学と感じさせられる。日吉キャンパスは、渋谷から東急東横線で日吉は20分前後と訪れやすいので、ぜひKMDのテクノロジーに興味を持った方は、来年は直に足を運んでみてほしい。