産業技術総合研究所(産総研)は6月30日、高周波電圧をかけることによって、金属磁石材料の磁化の向きを反転させるために必要な磁界を小さくできる磁化反転アシスト技術を開発したと発表した。

同成果は、同所 ナノスピントロニクス研究センターの湯浅新治研究センター長、野﨑隆行主任研究員らによるもの。詳細は、「Applied Physics Express」のオンライン版に掲載された。

磁気記録は、磁気テープや光磁気ディスク、フロッピーディスク、ハードディスクと形を変えながら記録容量を増大させることで、デジタル情報社会の発展を支えてきた。現在、磁気記録の分野において課題となっているのが、磁化の向きを変えるのに必要な磁界(反転磁界)を小さくするための技術開発である。

今回、磁化参照層/絶縁層/超薄膜磁化フリー層のサンドイッチ構造からなるトンネル磁気抵抗素子に高周波電圧をかけると、超薄膜磁化フリー層の磁気異方性が周期的に変化することにより、磁化の歳差運動が生じて、磁化反転のための磁界が大幅に低減されることを発見した。この現象は、磁気記録や不揮発性固体磁気メモリなどの消費電力の少ない情報書き込み技術への応用が期待される。

今後は、より高い垂直磁気異方性を有する材料系の検討とともに、局所的に高周波電圧(電界)をかけるための新しい磁気記録アシスト用ヘッドの開発を進め、数~数十nmサイズの微小磁石における磁化反転アシスト効果の実証を目指すとコメントしている。

(a)今回用いたトンネル磁気抵抗素子の模式図。高周波電圧をかけると、超薄膜金属磁石からなる超薄膜磁化フリー層の磁化(赤矢印)の歳差運動が引き起こされ、磁化の反転に必要な磁界が低減する。(b)反転磁界低減効果の例。約1GHzで最大約80%の反転磁界の低減が確認された