ありふれた材料で熱電発電技術を実現するための研究も

東日本大震災以降に生じているエネルギー問題に関連する技術の1つとしてバッテリというか、発電に関連する技術として、筆者が非常に期待しているのが未利用の熱エネルギーから電気を作る熱電発電技術だ。産総研はそれこそありとあらゆる発電やバッテリなどの研究を行っているが、今回はこの熱電発電に関する技術これをちょっと取り上げたい。

熱電発電というのはとても歴史のある技術であり、例えば、1970年代後半に宇宙に飛び立ったNASAの惑星探査機ボイジャー1号&2号など、木星よりも先の太陽光があまり届かない宙域へ向かう探査機には、原子力電池で発電する仕組みとして熱電発電の技術も利用されている(熱電発電はもっと古い技術だそうで、軍事技術から来ているという)。

もっと活用すべきではないかと常々思っていたので、今回エネルギー技術研究部門 熱電変換グループの山本淳グループ長や長瀬和夫氏らにいろいろとうかがってみたのだが、家の中で利用するには、あまり大きな電力を得られないので、使いどころが難しいらしい。しかも、これまでの熱電材料には重金属や希少金属が含まれていることが多かったので、産総研ではありふれた材料による熱電発電素材を開発中だという。

PCのCPUなど、発熱すると冬場などは特にケース外面との温度差とか生じそうなので、自分自身の冷却ファンぐらい回せそうな気がしていたのだが、希少金属などを用いているためコストアップにつながってしまう、というのでは、なかなか厳しいところがある。

熱電発電は、ヒヤっと感じる程度の金属に手のひらを置くだけでも、体温と金属の温度差でCPUの冷却に使うような小型のファンは回すことが可能だ(動画5)。ただし、この程度だとテレビや冷蔵庫や照明などの電源として利用する、というのは難しいらしい。家の中でも短時間なら熱い部分と、特に冬場などは外壁など寒い部分はあるわけだが、キッチンのガスレンジとかお風呂のガス湯沸かし器にしても、大して時間がかからずに熱的に平衡になってしまうので、なかなか連続して電力を取り出すのは難しいという(その一方で、設備としても高額になってしまうので、元を取るのが大変らしい)。

動画
動画5。左のファンは手前の金属の上下で数度の差で発電して回転。右のファンは、奥の赤と青の液体の温度差で発電して回転

本来、この研究では、工場廃熱や温泉熱などに加え、自動車をターゲットにしている。車に関しては一般人が手に入れられるものであり、今後は、ハイブリッドカーなどが増えていくことが考えられるので、廃熱を電気に変換できるのは有効だろう。現代の最新技術で作られたエンジンであっても、爆発のエネルギーの多くが廃熱となって逃げてしまうので、もっとエンジンの効率をアップさせてほしいところである。

ただし、それには熱電発電のシステムを加えても大して車両価格に差が出ないようにする必要もある。熱電発電システムを加えた結果10万円単位で車両価格が上がる場合、500万円や1000万円以上するような高級車ならあまり車両価格に響かないが、100万円やそれを切るような軽自動車や小型車だと何割も値上がりしてしまうのは確実に売り上げに影響してくるので、衝突回避・事故軽減のための自動ブレーキシステムと同様、全車両に搭載するのは難しいかも知れない。そのためにも、ありふれた物質を使った低価格な熱電発電素材が必要というわけである。

以上、今年もロボット関係に絞った産総研オープンラボ、いかがだっただろうか。このほかにも、分子ロボット系の話や分注用双腕ロボット「まほろ」などもパネルでは紹介されていたのだが、ラボ見学などや実機展示がなかったので、割愛させてもらった(実際には、ロボット関連だけで15点以上の展示があった)。

このほかにもサイエンスやテクノロジー好きの人にとっては、見て回るだけで満足できるような研究や発明などが紹介されており、またその研究者本人とも直接話ができるので、会社や学校を休んでも見て回っても損はないはず。いろいろと学べるものがあるはずだ。

また、初日には「次世代ロボットの研究開発動向」と題した、産総研におけるロボット関係の研究部門の責任者6名による講演も行われた。こちらは別記事でお届けする予定なので、お待ちいただきたい。