パナソニックは10月24日、2010年の第4回ロボット大賞で「日本機械工業連合会会長賞」を受賞した「注射薬払出ロボットを起点とした薬剤業務支援ロボット群」に属する医療用ロボットで、病院内の薬剤や検体をスタッフに替わって全自動で搬送する「HOSPI(ホスピー)」(画像1・2)の販売を2013年10月より開始することを発表した。

画像1(左):製品版として今回発売されるHOSPI。 画像2(右):2010年の第4回ロボット大賞時点でのプロトタイプのHOSPI。今回の製品版は、その時から外見的な変化はほぼないようだ

日本の人口構造の高齢化が進む中で、医療現場となる病院では経営の健全化と医療看護サービスの質の維持・向上が強く求められているのは、多くの人がご存じのところだ。同社は、病院の本来の業務である医療・看護業務を阻害する間接的な業務の効率化に着目。具体的には、系列の松下記念病院(大阪府守口市)と、埼玉医科大学が運営する埼玉医大国際医療センターにおいて医療・看護業務の調査・分析が行われたというわけだ。

これまで病院では、薬剤や検体の搬送については、主にカルテの随時搬送用として導入されたエアシュータや天井近傍を走らせる軌道台車などが利用されてきた。ただし、カルテは電子カルテが導入されることで、カルテの搬送は量・頻度ともに激減。その一方で、薬剤や検体などの搬送はカルテのように電子化ができないため、当然搬送するしかなく、ミスの許されない手段について、改めて模索されることになったのである。

この薬剤や検体の搬送は、病院の運営状況にもよるよるが24時間365日発生し、これを看護師や検査技師が行うわけだが、それは本業を妨げることとなっている。しかし、人手による代替は妥当ではないとの見方も強くあった。そのような事情から、人手による搬送に近い特性を持ち、エアシュータなど従来の搬送装置よりも導入費用や維持費用が安価な「ロボット」を利用することへの期待が高まってきたというわけだ。

このような背景の下、同社は長年蓄積してきた自律移動ロボットの技術を適用した搬送ロボットを開発し、先行して強い関心を同社に寄せたという松下記念病院と、埼玉医大国際医療センターにおいて実証試験がスタートしたのである。

実証試験の結果、従来の搬送機械設備(エアシュータや軌道台車)に比べ、導入費用が1/4~1/2程度、メンテナンス費用が1/5程度に抑えられる(松下記念病院の事例から試算)ことが判明。また、従来の搬送機械設備のように、経路上で搬送物の上下姿勢を変化させることがないため、検体や発泡性の高い抗がん剤の搬送が可能なこと、薬の臨時処方で期待される搬送時間(地下1階から6階の場合で5~6分)内の搬送を安定して実現できるといった、病院の経営や日々の運営に大きなメリットがあることが明らかになったのである。それを受けて、今回、HOSPIの販売を開始することになったというわけだ。

そしてHOSPIの特徴だが、大きく5点ある。1つ目は、走行経路ガイドが不要なこと。2つ目は、自律制御機能を搭載していること。3つ目は、自律制御機能と関係するが、エレベータへの自動乗降機能が実現していること。4つ目は、重要な薬剤・検体を守る収納部が備えられてセキュリティを確保していること。そして5つ目が、そのセキュリティに関係するが、院内LAN(有線・無線)による、運行監視システムが用意されていることだ。

走行経路ガイドが不要なことにより、従来の自動搬送設備と比較して導入費用と維持費用の面で大きなメリットがあることは前述した通り。HOSP走行経路ガイドが不要なため、従来の自動搬送装置が必要とした走行経路を決めるためのテープや軌道(レール状のもの)を施工する必要があり、そのために病院業務の改善やレイアウト更新の都合で、経路や目的位置を変更する際には、これらテープや軌道の施工をし直す必要があったのである。

こうしたテープや軌道を必要としなくなったため、それらによって患者やスタッフが歩行を妨げられることもなくなり、また床面の美観を損ねることもなくなったのである。導入費用と維持費用が安価なのは、こうしたインフラを床面に対して設置する工事をホコドス必要がないためで、さらに導入工事期間も短縮できるというわけだ。

2つ目の自律制御機能については、1つ目のテープや軌道などを必要としない理由である目的地を指定されたHOSPIは、事前に入力された病院建物の地図情報を基に、適切な走行経路を自分で計画し、走行を完遂する機能を持つ。途中で患者や車椅子などによって走路をふさがれてしまう場面に遭遇しても、レーザーレンジファインダーを活用した障害物検知センサシステムにより安全に回避して目的地に向かえるのである。

3つ目は、自律制御機能と関連するが、HOSPIはエレベータへの自動乗降機能を有しており、多層階の病院内でも職員の手を煩わせることなく搬送できることだ。エレベータのケージにHOSPIが乗り込んでくることに対して不安を感じる患者はお見舞客などもいる可能性があるため、HOSPIがエレベータを利用する場合は、エレベータがHOSPI乗り込み専用モードとなり、患者などは利用できなくなる。そしてHOSPIが降りると、即座に人が利用できる通常モードに戻るという仕組みだ。エレベータの利用効率と安全・安心な運用が両立されているのである。

さらにオプションではあるが、HOSPIやエレベータ装置からの音声案内やサイネージにより、一時的にHOSPIがエレベータを利用することを映像と音声で知らせることも可能だ。患者やお見舞客などの快適性を損なわないようにも配慮されているのである。

続いて4つ目は、重要な薬剤・検体を守る収納部が備えられている点(画像3)。これは、つまりセキュリティが確保されているということだ。HOSPIはスタッフが送り出した後は、基本、スタッフの目を離れて病院内を目的地に向かって移動することになる。

すると当然、見た目もかわいかったり物珍しかったりすることから、下手したら子どもたちが遊んだりしてしまうかも知れないし、中には収納部を開けてようとする子どもだって出てくるだろう(何が入っているか、子どもにとってはとても気になることだろう)。さらには、いい大人のくせに、人の目がない場所でHOSPIと出会った時に、搬送物を取り出したりイタズラしたりするようなたちの悪い者や、明らかに中のものを盗もうとする人だって現れる可能性もある(病院の患者もお見舞客も、残念ながら善人ばかりではない)。

そうしたリテラシーの低い人や犯罪者からのトラブルを防ぐため、HOSPIの収納庫はIDカードによるセキュリティを確保しており、スタッフのみが収納庫を開錠することができるようになっているのである。さらに、安定した姿勢で搬送することで液体の泡立ちを少なく抑えることができ、一般薬品に加え、血液検体、尿検体などを搬送することができるというわけだ。

画像3。左が前部で、右が後部。収納部は機体後部にある

5つ目は、有線・無線を問わない院内LANによる、運行監視システム。いくらセキュリティがしっかりしているとはいっても、中にはHOSPIそのものを盗み出そうとする者もいるかも知れないし、人の目がないのをいいことに破壊行為をされてしまうようなことだってあるかも知れない。そのため、走行中の状態や、到着したことをわかりやすく伝えるために、院内LANを活用した運行監視システムが備えられているのである。

またHOSPIは、すべての操作や走行経路を記録することはもちろん、オプションだが走行前方のカメラ画像を記録する機能も装備。そのため、誰がいつHOSPIにどのような搬送をさせたかの記録を残せるだけでなく、走行中に例えば子どもがHOSPIと遊んでいた事象や、HOSPIに対する器物破損行為(もので叩く、わざと倒すなど)、HOSPI到着位置にほかの機器が置かれてしまっているようなことなど、運用にまつわる改善点を明確にすることができ、正確で効率的な院内搬送を維持するというわけである。

スペックは以下の通りだ。

  • サイズ:全幅630mm×奥行き725mm×全高1386mm
  • 質量:約170kg *連続運転時間:約7時間(運用方法、走行環境によって変動)
  • 充電時間:フル充電まで約8時間
  • 最大移動速度:1.0m/s
  • 搬送能力:最大20kg
  • 搬送収納スペース:A3サイズ薬剤トレー6段相当
  • 搬送物:一般薬品、要管理薬品、検体、カルテなどの文書類
  • 通信機能:無線LAN IEEE802.11a/b/g/n
  • セキュリティ機能:IDカードによるユーザ認証
  • 自律走行機能:地図情報と環境認識に基づく自律走行
  • センサ:レーザーレンジファインダーによる環境認識
  • エレベータ乗降機能:エレベータの自動呼び出し、乗り降り
  • 記録機能:操作者、操作内容、走行位置
  • 映像記録(オプション):走行前方映像を撮影可能なカメラを追加可能

なおHOSPIの開発・製造については、系列のパナソニック プロダクションテクノロジーが、販売についてはパナソニック システムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー関西社がそれぞれ担当する。