チャレンジャー海淵に沈んでも潰れないしんかい6500のコックピット

最初に訪問したのは、高圧実験施設。大型高圧実験水槽などが設置された施設で、そうした施設とそれに付随する各種機材を見ることができた(画像30~32)。さらにしんかい6500の開発時でコックピットである耐圧殻の圧壊試験で破壊された金属の破片など、強大な水圧によってボッコリと凹みのある金属製の球体などが展示されている(画像33~35)。ちなみに耐圧殻は1万3200mに相当する1397kgf/平方cmをかけた際に圧壊しているので、万が一しんかい6500に何かあって、世界で最も深いマリアナ海溝のチャレンジャー海淵(計測数値はいくつかあるが、おおよそ1万910~20m位で、1万1000mまではあと70~80mはあるとされる)まで沈んでしまったとしても、耐圧殻は壊れる心配はないというわけである。

画像30(左):高圧実験水槽の本体。地下に埋まっている形だ画像31(中):高圧実験水槽設備の概要。画像32(右):ニッケル・クロム・モリブデンなどの合金でできた高圧実験水槽のフタ。10tの重さ

画像33(左):39mmの熱さを持つこんな硬そうな鋼球だが、約5600mまで潜るのと等しい圧力でこのように凹んでしまった。画像34(中):圧壊試験で壊れた品々の数々。画像35(右):圧壊試験で壊れたしんかい6500の耐圧殻(と同じもの)。金属がちぎれるように壊れていることから、どれだけすごい圧力がかかったのか薄ら寒くなる

しんかい6500に続く、有人深海探査艇の建造に期待

ちなみに、しんかい6500は1989年に完成してからかれこれ約四半世紀になるわけで、2012年3月に大幅なアップデートは施されたが(記事はこちら)、6500m以上の深度に挑むという基本スペック的な部分はいかんともしがたい。そこで見学ツアーで説明していただいたJAMSTECのスタッフの方に話を伺ったところ、今の技術なら1万1000mまで潜る有人探査艇を作ることは可能だそうである(筆者が勝手につけた仮称「しんかい11000」のような建造計画が正式決定しているわけではないが、作りたいという希望と、作れるという自信はあるそうである)。しかも、しんかい6500と同様に、窓も用意できるだろうということだ。

なお、1万1000m級の有人探査艇は、海洋研究の実績がある先進国であれば、日本以外でも開発は可能だという。実際に1960年時点ですでにアメリカ海軍の有人潜水艇「トリエステ」がチャレンジャー海淵に着底しているし、近年では2012年に映画監督のジェームズ・キャメロン氏が1人乗りの潜水艇「ディープチャレンジャー」で同じく着底している。ただしディープチャレンジャーは1発勝負であり、しんかい6500のように年に何度も潜航できるような支援船なども含めた運用体制を整えるには技術力だけでなく、運営能力などそれ以外のものも必要とされるため、どこでもできるというわけではないそうで、JAMSTECなら作れるとしている。ぜひ、正式に計画を決定していただきたいところだ(日本の技術力向上のためにも、こうした開発は絶対に必要だと思う)。

でも、どうせ開発するのなら、もしかしたら隠れていてわからなかったもっと深い海淵とかあるかも知れないので、しんかい6500の倍の1万3000m級とか、数字的にキリのいい(笑)1万5000m級とかを思い切って建造してほしいと思うのだが、どうだろうか。まぁ、必要もないのに深くまで潜れるようにしてしまうと、それだけ無駄なところが出てきてしまうだろうし、開発費も膨らんでしまうだろうから意味のない期待なのだが、深いとか高いとか速いとかその手の数字は大きい方がワクワクするものである。

性能がよければ、持って行くのは大変だが、もしかしたらその内に木星の衛星のエウロパにあるとされる氷の下の大海洋(画像36・37)を調べるのに使えるかも知れないから(笑)、そのぐらいあってもいいのではと思うのだがダメだろうか? 将来、JAMSTECとJAXAのコラボレーションで、NASAを出し抜いてそんなすごい探査ができたら(お金があれば、日本の技術力ならやってやれないことはないのではと思えなくもない?)、すごいと思うのだが、夢は大きく持ちたいものである。

画像36(左):エウロパの断面図。氷も分厚いが、その下の海洋もかなりの深さがあると予想されている。(c) NASA 画像37(右):NASAの将来計画のイメージイラスト。氷を溶かして海洋まで到達して探査を行うというもの。(c) NASA