目指すのはつぶしの効く人材の育成

――本当に幅広い層を生み出していますよね。それは、講義でクリエイティブを教えるとともに、ビジネスを教えているといった幅広い教育を行っているからなのでしょうか。

杉山「特に大学院はそうですね。大学院には教育方針として、クリエイティビティ、ビジネス、ネットを中心とした技術であるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)といった3本柱があります。今まではこの3本柱でしたが、来年からはもっと明確に行っていこうと思っています。我々は専門職大学院というジャンルに属しており、一般的な研究をする大学院ではありません。法科大学院と同じ括りなのです。法科大学院も法学を研究するところではなく、"弁護士になる"、"司法試験を受ける"ことが目的ですよね。それと同様に、うちの大学院も、実務的な能力を身につけることと、未来の実務に役立つ基礎力をつけることが目的なんです」

――柔軟な人材をつくろうというわけですね。

杉山「そうです。基礎力といっても、本当の意味でデジタル技術の根幹がわかっていないと、やはり多くのことはできません。今だけを見ていても、明日には新しい技術が出てきてしまいます。その度に立ち止まっていては困ってしまうはずです」

――素晴らしい試みですが、日本ではそういう前例のないことをやろうとすると、苦労が多そうですね。

杉山「前例のないことを取り組むのが、この会社の運命だから仕方ありませんが、なかなか理解されないですね。大学選びの際も、高校の先生らは、"コンテンツ産業"というものに馴染みがないため、子供たちが『漫画を描きたい』、『アニメを作りたい』と言っても『才能がないんだからあきらめなさい』と押さえつけてしまいます。なので、まず子供達にどういうスキルを教えるのかも含めて、高校の先生方やご父兄の方々に認めてもらわなければなりません」

――そうですね。

杉山「我々のカリキュラムは、映画製作やCGアニメーション制作、ゲーム開発、Webサイト制作といったものが中心になっているように見えていますが、そういうスキルに英語力が備われば、どの産業にいってもまったく困らないと考えています。我々は、コンテンツ産業のための若手デザイナーだけを育成しているつもりはなく、日本の会社ならどこにいってもつぶしがきく"21世紀ビジネスマン"の基礎力を育成していると思っているんです。もちろん、映画産業やゲーム産業に就職するのもいいですが、どんな会社に行っても、最新のデジタルツールを自由自在に使いこなして、その会社のための広報、宣伝、キャンペーン、プロモーションといったことができるはずです。うちはどこでも使えるスキルを教えているつもりです」

撮影:石井健