ベテラン職員の大量解雇や社名の新登録などに走る

新たに施行された労働契約法の下では、企業のマンパワーコストが大幅に増える。ハイテク企業に関してはさほど影響しないかもしれないが、労働集約型企業においては直接企業の存亡にまで影響するかもしれない。

労働契約法の中身が明らかにされてからというもの、一部の中国企業は従業員を説得してその勤続年数を買い取ったり、あらゆる手を尽くして労働契約期間の短縮を工作したり、従業員のレイオフを試みたりと、それこそ八方手を尽くしてその影響を回避しようとした。

これと全く対照的だったのは、一部の日本企業だ。中国で長期雇用を前提にした人材戦略を推進しようとしている。日本企業の強さや戦後の経済発展の原動力の一つに、日本企業に長期の視点で物事に対する姿勢というものがあるとあらためて認識した。

一方、中国の多くの企業や企業家には、まるで戦略的な視点がない。どこまで「発展」しても、相変わらず零細農家のような考え方をしているのだ。問題を観察する姿勢や分析、問題への対応と解決といった各プロセスで、あまりにも短視眼的なのである。

今回の労働契約法施行で、中国企業の狭量な考え方や未成熟な見識が徹底的に表に出た気さえする。ベテラン職員が大量に解雇され、代わりに大量の新人が採用された。一部の企業では、社名を新たに登録、従業員に契約を再締結させている。こうした行為は、いずれも一時的な負担の軽減を図り、元来企業として負うべき社会的責任を回避するために行われたものであった。

人材不足の背景に「従業員使い捨て」の悪習

このようなやり方は、一時的には企業に利益をもたらすかもしれない。だが、長い目で見れば、得どころか大損になるだろう。企業の発展には、人材が不可欠である。近年、比較的経済が発達している長江デルタ、珠江デルタなどの地域で一部の企業が生産停止に追い込まれている。いわゆる「民工荒(出稼ぎ労働者)」の不足が原因だ。

しかし、その背景には、従業員を使い捨てにする中国企業の姿勢がある。使い捨てにされれば従業員は力を出そうとなどしないし、問題を発見したとしても口をつぐむ。もちろんチャンスがあればすぐにでも転職してしまうだろう。結局、損をするのは企業自身なのである。

国際的な経営理念を持ち戦略的視点を持つ企業であれば、従業員を大切な人材として遇するはずだ。一部の日本企業のように、手を尽くして従業員に安定感、安心感、帰属感を感じさせ、企業文化を浸透させ、従業員が心から企業と運命を共にしたくなるような気持ちにさせるだろう。それでこそ、企業は持続的な発展力を保ち、長期にわたる繁栄を図れるのではないだろうか。