考察

駆け足でベンチマーク結果を見ていったが、確かに従来のPhenomと比較した場合、Phenom IIは大幅に魅力ある製品になった事は間違いない。その最大の理由はやはり消費電力の下がり方だ。これなら、Phenomの時ほど放熱にシビアになる必要はないし、逆にPhenomのヒートシンク類を流用するならばかなりオーバークロック動作が期待できそうだ。今回、3.2GHzでとりあえずテストを行ったが、動作が不安になることは一切なかった。もうすこしマジメにやれば、もっと上の周波数で安定動作させることも可能だろう。

また、性能も確かに同一周波数のPhenomを上回る成績を出す事も明確にわかった。絶対性能という面ではまだちょっとCore 2系に遅れをとっているが、これはまた別の問題ではないかと筆者は推察している(その別の問題は何か、は後日掲載の内部解析編までお待ちいただきたい)。

価格面、および消費電力、性能という面で見ると、Phenom IIの真の敵はCore i7ではなくCore 2だろう。実際Q9550あたりとは実に良い勝負になりそうだ。実際、構成を考えた場合、Core i7はPhenomよりも大幅に高価になる。CPUの値段を別にしても、現状のSocket 1336は6層以上が必須で、実売価格でも3万円程度。DDR3メモリがDDR3-1066×3で1万2千円前後。対するPhenomは、メモリなんて暴落しまくりのDDR2-800だから、2GB×2でも4千円。マザーボードはSocket AM2のものでもいけるから、安ければ1万円台。これとCPUの価格差を考慮にいれると、5万円以上の差になりかねない。

もっともCore i7はその価格差に見合うだけの性能を発揮しているともいえるので、単純に安ければ正義とも言い切れないのだが。ただ、現実問題として競合するのは、やはり安いDDR2が使え、かつマザーボードも安価なCore 2 Quadということになるだろう。今回はQ9550を用意したが、実売価格で比較するとその下のQ9400あたりも競合する筈で、しかも消費電力はおそらく同等以下である。Q9400の場合L2が3MB×2に抑えられているから、性能面でもPhenom II X4 920あたりにBehindを負う可能性がある。

Socket AM2ユーザーの視点から見れば、今回のPhenom IIはアップグレードのための福音であろう。Athlon 64 X2あたりのユーザーが乗り換えるには最適なCPUと言っても良さそうだ。特に低消費電力を目指すユーザーには、なかなか魅力的である。今回は2.6GHz動作を試したが、もっと下の2GHzあたりまで下げれば、猛烈に消費電力は減りそうだ。940 Black Editionならばそうした構成も問題なく可能になる。

筆者が懸念しているのは、むしろOpteronの事である。これだけCore i7との性能差があると、やっと捕まえたHPCやサーバ向けマーケットをCore i7に奪われてしまいかねない。そうした動きを止めるだけの力がShanghaiにあるか?と聞かれた場合、Denebのこの結果を見た限りでは「怪しい」と答えるしかない。このあたりをもう少し、次回の内部解析編で掘り下げてみたいと思う。