インターネットのスラングで「スルー」といえば「受け流す」という意味。LINEなどのコミュニケーション用アプリでメッセージを読んでも反応しない「既読スルー」や、ネット掲示板で挑発的に感じた言葉を無視する「スルースキル」「スルー力(りょく)」のように使われる。スルースキルが高いと「大人の対応」と評価される。でも、何でもかんでもスルーしちゃうと、「助言にさえ耳を貸さない」わがままなヤツと思われる。

インターネットのコミュニケーションでは、「スルー」も大切だ。ところで、鉄道分野にも大切な「スルー」がある。「一線スルー」といって、特急列車のスピードアップに必要なしくみだ。「一線スルー」は、単線の駅や信号場において、一定の条件を備えた「配線と信号システムの組み合わせ」を表す言葉だ。すれ違いに必要な2つの線路のうち、片方を一直線に配置し、特急列車など通過列車を高速で運行できるようにするしくみである。

単線のすれ違い駅の例

昔ながらの単線区間では、すれ違い可能な駅はY字型のポイントを向かい合わせにして、その間にホームを置いた線路配置になっている。この場合、日本の鉄道は左側通行が原則だから、つねに列車は左側の線路に進入する。

単線のすれ違い駅を示した図の中で、黒く細い線は「安全側線」という。列車が暴走したとき、そのまま本線に行かないように、わざと脱線させるという安全装置である。単線のすれ違い駅は左側通行だから、安全側線は進行方向に設置される。

このタイプの駅では、列車がY型ポイントを通過するときに速度を下げなくてはいけない。Y字型ポイントは小さな急カーブだから、高速で進入すると脱線するかもしれないからだ。そこで、列車が発車するときだけポイントの曲線を使い、列車が到着するときはスピードを落としすぎないようにする配線もある。

平行四辺形型の配線

この場合、発車する列車の速度が遅いため、ポイントを制限速度以下で通過する。到着する列車の制限速度が高いから、ノロノロ運転でホームに入る必要はない。スムーズな減速ができて、所要時間の短縮につながる。ただし、通過する列車は駅を出るときに速度制限を受ける。

通過する駅で速度を下げるなんてもったいない。駅間を走る速度で通過したい。そこで考えられた配線が「一線スルー」だ。片方の線路について、ポイントの直線側だけを走行できるようにしている。

一線スルー"型"の配線

ただし、このような配線にしただけでは「一線スルー」とはいえない。なぜなら、列車が左側通行のままだから。高速に通過できる特急列車は右から左へ向かう場合だけ。左から右へ向かう場合はポイントの曲線側を2度も通るので、平行四辺形型よりも通過速度が遅くなってしまう。そこで、「一線スルー」は左側通行の原則をなくし、通過する列車はつねに直線のみの線路を走らせる。対向列車や追い越される列車は分岐側で待機する。

一線スルーの配線

「一線スルー」の図と、そのひとつ上の図は似ているけれど、よくみると安全側線の数が違う。一線スルーはどちらの線路からも左右両方に出発する列車があるため、それぞれの線路の出口側に安全側線が必要になる。

一線スルーは左側通行の原則を崩すから、安全を確保するために各線路の進行方向を的確に制御する必要がある。とくにダイヤが乱れ、列車のすれ違い場所が変更になったときは要注意だ。特急列車同士がすれ違う場合、退避側と通過側を間違えると衝突のおそれがある。2015年5月22日、長崎本線肥前竜王駅で、特急列車が停車していた待避線に逆方向の特急列車か進入し、衝突寸前という事故も起きている。

こんな事故が起きると不安になるけれど、通常はきちんとコントロールされており、安全に列車を高速運行できるしくみだ。JR西日本の山陰本線、JR四国の予讃線、北越急行ほくほく線など、地方の幹線で実績があり、既存の路線を高速化する場合は鉄道・運輸機構の「幹線鉄道等活性化事業費補助」の対象になる。

ただし、こんな話は鉄道に興味のない人にとってはつまらないかも。説明しても「スルー」されちゃうぞ!

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