電車の正面を眺めていると、下の方に何枚かの板状の部品が飛び出していることがある。「電車の窓ガラスを拭くための足掛け」と思う人が多いだろうし、実際にそこに足を掛けてガラスを拭く乗務員を見たこともある。しかし、あの部品の名前は「アンチクライマー」、直訳すると「よじ登り対策」という意味である。

京浜急行800形

連結器付近に板状の部品が飛び出している

その名は「アンチクライマー」

アンチクライマーはよじ登り防止装置である。でも、ホームから足を伸ばすとちょうど踏み台になりそう……なんて思ってはいけない。危険なので、決してしないように。しかし、登りやすくさせておいて、よじ登りを防ぐとはなんとも思わせぶりな。一体、どういうことだろう。

実は、よじ登らせたくない対象は人ではなく、電車である。電車が正面衝突したときに、「一方の電車が他方の電車によじ登る」という現象を防止するための装置なのだ。

電車でも車でも同じことだが、車輪や駆動装置を取り付ける台枠部分がもっとも頑丈にできている。これに対し、客室にあたる上部は骨組みも細く鉄板も薄いため、台車に比べると柔らかい。電車が正面衝突して台枠の高さがずれた場合に、片方の台枠が他方の車体に突っ込んでしまう。

これを防止するためにアンチクライマーを設置するのだ。電車が正面衝突すると、双方のアンチクライマー同士が噛み合わさって、上下方向の動きを封じ込め、台枠のよじ登り現象を防げるというわけだ。

アンチクライマーの歴史は古く、電車の車体が木製だった頃から使われている。最近は車体の強度が高くなっているため、アンチクライマーを装備しない車両も増えている。