鳴り響く電話とメール着信音

昨晩、FOMC(*)議事要旨が発表された後、ヘッジファンド・米国年金基金からのメール・電話が相次いでいます。かつてのスイス銀行NY勤務時代の同僚・後輩たちが、今はウオール街の各社にリクルートされて、私の情報ネットワークになっているのです。
(*)Federal Open Market Committee 連邦公開市場委員会

「利上げは早くて9月。来年まで後ずれも現実味がある。利上げペースは、FOMCごとに状況を確かめつつ慎重運転。」との確信が強まり、リスク意欲に拍車がかかっている。利上げまで「執行猶予6か月から1年」となれば、2015年の勝負はこれから。 とはいえ、決算発表シーズンを迎えた米国企業の業績はドル高・原油安で多くを望めない。そうなると、NYから見た国際分散運用は必須です。 欧州株は急騰したが、欧州中央銀行(ECB)量的緩和という材料は既に賞味期限切れが近い。

そこでマネーは西から東へ向かう。 足元で目立つのは、中国株の上げっぷり。但し、初心者の個人投資家中心の市場ゆえ、ネズミの大群のごとく動く。下げのタイミングとスピードも速い。予測不可能な行動に出るので、慎重にならざるを得ない。

そこで注目されるのが、日本株の安定感。調整局面でも下げ渋り、再度上げに転じています。ROE重視、株主還元など質的向上は、中国株に比し安心感を生むのです。 ヘッジファンドは1-3月に日本株売買第一ラウンドを終えた。第二ラウンドは4月に買って5月に売る(sell in May)目論みが透けます。

ヘリコプター・ベンの再来か?

いっぽう、米国年金運用担当者にズバリ日経平均の2015年予測を聞くと、2万2千-3千円との答えが多い。カンポ・ユウチョなどの日本名もすっかり覚えた様子。GPIF(*)に次ぐ買い手として期待感を寄せる。おりからバーナンキ氏(元FRB議長)の回顧録出版が話題となっており、"ヘリコプター・ベン"をもじって"ヘリコプター・ハル"と黒田東彦氏への期待感も大きい。8日の日銀金融政策決定会合への関心もこれまでより強かった。「躊躇なく行動する」との発言が、「景気が悪くなればヘリコプターからドル札をばら撒けばよい」と言い放ったバーナンキ氏の伝説と重なるイメージを誘っているようです。
(*)Government Pension Investment Fund 年金積立金管理運用独立行政法人

ヘッジファンドと異なり買い方は地味ですが、2015年通年で粛々と日本株比率を上げてゆく構えが見られます。 総じて、日経平均2万円の後の「出口戦略」のほうに既に意識が移っている様子です。 そこは、アベノミクスのサード・アロー(第三の矢)の結果次第。 国内選挙や消費税再増税、そして日本国債市場の機能不全をいかにこなしてゆくか。それにより日本株保有期間が決まっていくでしょう。

人間は時に理屈で動かない

そして株が上がると、投資家も心理的余裕が出て、新たに金でも買おうかという気分になるようです。これは、市場最前線で感じること。理屈から言えば、"株が下がった時に金でヘッジ"ですが、人間は理屈通りには動かない。株価が下がると、心理的に萎縮して、金など新たなものにカネを入れる余裕もなくなる。逆に、株価が上がれば「資産効果」で金を買う余裕もできるわけです。

著者プロフィール

●豊島逸夫
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。 三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく独立系の立場からポジショントーク無しで金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。またツイッターでも情報発信している。