夏のこの時期、快適に過ごすために欠かせないのが冷房。列車においても、いまや冷房の効いていない車両はあまり見かけなくなりましたよね。でも国鉄時代には、冷房などなく、「扇風機だけが頼り」という車両がけっこうあったように思います。今回はその扇風機について、ちょっと紹介してみたいと思います。

畳の上に置かれた2台の扇風機。写真では見づらいが、左側の扇風機には「KINTETSU」と刻まれ、右側のロゴには近鉄の社章が入っている

自宅の天井に設置したがる「鉄道扇風機コレクター」が実在する!

列車の扇風機といえば、天井に取り付けられ、360度くるくると首を振る、丸くてチャーミングなあれです。灰色または薄緑の、いかにも業務用といった感じの扇風機でした。

列車の冷房化が進んでからも、空気をかき混ぜるために使いたい意図があったのか、わりと最近まで扇風機の付いた車両があったように記憶しています。でもいつしか、筆者の行動範囲(おもに阪神沿線)ではほとんど見かけなくなってしまいました。地方のローカル線をはじめ、いまだ現役の「扇風機列車」がいるかもしれませんが……。

扇風機を製造した会社名や製造年月のほかに、「40cm交流天じょう扇風機」「電圧100V」「周波数50 / 60Hz」などの文字も

ところで、筆者の知人に、ちょっと変わった鉄道好きがいます。彼とはバイク仲間でもあるのですが、ハンドルネームがすでに普通ではなくて、「クモハ鉄二」と、いかにも鉄道好きらしい名前です。

彼がこだわる部分もひと味違っていて、「踏切の音を聞きに行くツーリング」なんていう企画を立てては、健全なバイク仲間を鉄ちゃんの世界に引きずり込もうとするのです。彼いわく、「あそこの踏切はまだ電子音化されてないアコースティックな鐘の音で、めちゃくちゃ貴重なんや!」だそうで。

そんな彼のもうひとつの顔、それが「鉄道扇風機コレクター」。あちらこちらで開催される鉄道部品即売会に出かけていっては、かつて列車の天井に取り付けられていた扇風機を買ってくるのです。さらに具合の悪いことに、彼の仕事は建設関係。家族が不在のときを狙い、自宅の天井にこれらの扇風機を取り付けてしまうのです。

筆者も彼に教えてもらうまで知らなかったのですが、あの扇風機には家庭用のものと同じコンセントのプラグが付いていて、交流100Vで作動するものもあるとか。家族に怒られながらも、ひたすら扇風機を買う男「クモハ鉄二」氏は、鉄ちゃんとして、コレクターとして、「かなり戦闘力が高い」と言っていいでしょう。

近鉄「鮮魚列車」。なじみがない人にとっては"謎だらけの電車"といえる

近鉄のイベントで扇風機発見! そして…

もう10年ほど前になりますが、彼に誘われ、近鉄のイベントを一緒に見に行ったことがあります。場所はたしか五位堂。当時、まさか阪神とつながるなんて予想もしておらず、筆者にとって近鉄は謎だらけの電車でした。

見慣れない赤と白の塗装の電車が並ぶ整備工場で、電車の下に潜り、台車や床下機材をつぶさに観察する大人2人。鉄ちゃんなら誰でも楽しめるイベントになっていたところは、さすが近鉄といったところでしょうか。そんな会場の一角に、部品の即売コーナーがありました。

その日、扇風機は3台出品されていました。値段を聞いてみると、1台3,000円とのこと。じつは近鉄のイベントの少し前に、別の場所で国鉄時代の扇風機が売りに出されたのも見ていたのですが、「JNR」のロゴの入った扇風機は1台1万5,000円もしました。それに比べれば、目の前にある扇風機はかなり格安です。うーん、格安、格安、お買い得……。

気の迷い、というのは恐ろしいものですね。

「JNR」のロゴが入った扇風機も!

筆者の自宅に、いまも大きめの段ボールがあります。中身は……、そうです! ご想像の通りです。いつかこいつらを、自宅の天井に取り付けてやろうと思う今日この頃です。