「離婚したい!」―その思いは一つでも、離婚に至るまでの状況は人によってさまざま。ここでは、弁護士の先生が皆さんの離婚に関する悩みや疑問に回答。連載1回目の今回は、「離婚入門」として問題に取り組む以前に知っておきたいことについて本橋一樹弁護士に教えていただいた。

Q.離婚の手続にはどのようなものがありますか?

A.離婚のための手続には、「協議離婚」「調停離婚」及び「裁判離婚」(ごくまれに審判離婚)があります。

夫婦は、双方の合意があれば、届け出をしただけで離婚が成立します。これが皆さんもご存じの協議離婚です。しかし、夫婦の一方が離婚に合意しない場合には、家庭裁判所へ調停の申立をしなければなりません。調停手続の中で合意に達し、調停が成立すれば、調停調書が作成され、離婚となります。これが調停離婚です。調停手続の中で離婚の協議が整わなかった場合には、最終手段として、家庭裁判所へ訴訟を起こし、離婚判決を求めることになります。これが裁判離婚の手続です。

「婚姻を継続しがたい重大な事由」って?

Q.離婚が認められるのってどんなときですか。

A.どのような場合に離婚が認められるかについて、裁判離婚を前提に考えてみましょう。

民法には、離婚原因が法定されており(民法770条1項)、例えば、不貞行為などは分かりやすい離婚原因ですが、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(同条1項5号)という抽象的離婚原因に当てはまるかどうかについては、常に悩ましい判断の問題が生じます。 「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻し回復の見込みがないことを意味します。

そして、この事由に該当するものとして離婚が認められた例としては、性生活の異常、暴行・虐待、暴言・侮辱等々がありますが、その他にも、過度の浪費、無為徒食の生活、禁止薬物の使用、長期間の別居、性格の不一致などは、単独の事由としてはなかなか難しくとも、他の事由ないし事情も重なれば、離婚原因に該当すると認められることがあるでしょう。

結局は、各事由の性質・程度・態様等を総合的に考慮した上で、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないかどうかという観点から判断されるので、単に、一事由があったからといって安易に離婚が認められると考えるべきではありません。

例えば、暴行といっても、単に一回、怪我をさせない程度の平手打ちをしただけでは、「婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない」とは言えないでしょう。要は、性質・程度・態様等を総合考慮した上での判断になるということです。

Q.どのような証拠があれば、離婚理由として認められますか。

A.不貞行為などでよく提出される証拠として、信用調査会社が作成した報告書などがありますが、最近では、メールの文面や携帯電話の写真などが有力な証拠となります。 DVなどは、密室で行われるため、医師の診断書はその都度作成してもらうとして、さらに、DVの様子を録画・録音する等して証拠を確保する方法もあります。また、配偶者暴力相談センターか警察にも相談する手続を踏んでおき、その上で、配偶者暴力に関する保護命令の申し立てをしておくなどという手もあります。

その他、日記、メモ、領収書、レシート、クレジットカードの使用明細、ホテルや店舗のポイントカード等々、手に入るものやコピーできるものは、できるだけ確保しておきましょう。

Q.離婚する際に問題になりやすいのはどんなことですか。

A.離婚自体には合意しても、子供の問題や財産の問題については、合意を形成することがなかなか難しいのが現実です。

夫婦間に未成年の子がいる場合には、離婚する際に、親権者を父か母のいずれかに決める必要があります(民法819条1項、2項)。父母の協議が整わない場合には、家庭裁判所が審判により親権者を決めることになります。その他、離婚後の子との面会交渉、養育費の定め等、決めておくべきことはたくさんあります。

また、財産の問題としては、離婚する際に、婚姻中に協力して築き上げた財産をどのように分けるか(財産分与)、婚姻破綻の原因を作った相手方に対して、どれだけ慰謝料請求をするのか、等々といった問題が生じます。お金の問題は、一朝一夕では解決しないので、調停手続内でも、解決までにかなりの期間がかかる場合が多いといえます。

「離婚するのは非常に大変なこと」

Q.離婚について一言お願いします。

A.実務に携わっておりますと、相手方が離婚を拒否している場合には、離婚することが非常に困難だということを痛感します。

協議による離婚ができないとなると、結局は裁判を覚悟しなければなりませんが、不貞とか虐待等といった分かりやすい離婚原因がある場合は必ずしも多くなく、大抵は、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかという悩ましい問題になるからです。既に述べたように、この離婚原因に該当するような事由があるかどうかというと、そのハードルはなかなか高いわけです。

結婚するのは簡単ですが、いざ、相手方が拒否した場合には、離婚するのは非常に大変なことなのです。

<著者プロフィール>
弁護士 本橋一樹
東京都世田谷区出身。平成6年弁護士登録。平成17年より4年間、非常勤裁判官。著書として「当事者照会の理論と実務」(青林書院)、「判例タイムズ臨時増刊・差止めと執行停止の理論と実務」。一般民事・相続・離婚等何でも扱うが、独立後は不思議と不倫事件の相談・処理件数が多い。勤務弁護士時代の経験から証券取引問題に精通し、また、自宅に関する苦い経験から建築問題を多く手がけ、建築紛争には異様な執念を燃やす。
本橋一樹法律事務所
http://www.kazu-law.jp/

イラスト: 野出木彩