北海道新聞が元日の記事で「第2青函トンネル構想」を掲載した。大手建設会社などが2年前から構想し、昨年末にまとめたというから、同紙が新年向けに温めていたネタと言えそう。北海道と本州の物流問題、最近の千歳空港降雪時の混乱を振り返ると、"初夢"ではなく"正夢"にしたい。
北海道新聞の記事によると、概要は以下の通り。
鹿島建設や大成建設などの大手建設会社、民間コンサルタントらでつくる「鉄道路線強化検討会」が2年ほど前から、複数の案について経路や工費などを検討し、昨年夏にまとめた。構想によると、既存の青函トンネルの西側100~250メートルに、延長57・0キロの第2青函トンネルを設ける。貨物列車向けの単線で工費は約3900億円、工期は約15年とした。
「第2青函トンネル構想」については、2014年6月に青森県議会議長(当時)が国土交通省を訪れ、非公式に要望を伝えた。青森県の利益ではなく、国家強靱化の観点からの提案だった。これが同年7月に河北新報で報じられ、論議のきっかけになった。これは「鉄道路線強化検討会」の発足の時期とも符合する。
遡ると、2004年に国土交通省が「平成16年度の整備新幹線建設推進高度化等事業」として「青函トンネルにおいて貨物列車が新幹線上を走行する場合の安全性の検討などを行う」調査を実施している。これを受けて2012年7月、国土交通省内で「青函共用走行区間技術検討WG(ワーキンググループ)」も設置された。その第1回で、国土交通省鉄道局施設課長より「仮に青函トンネルをもう1本掘ったら4,000~5,000億円かかるだろう」「作業坑、地質調査用の先進導坑を活用するアイデアもある」という趣旨の発言があった。
議事録によると、「北海道新幹線札幌延伸の10年後には現在の青函トンネルも大改修が必要となり、そのときに減速しながらの作業となってしまっては意味がない」という意見もあった。これはおそらく、現在の関門トンネル在来線用の補修状況を踏まえて、手っ取り早い解決方法として、もうひとつトンネルが必要という考えであろう。
青森県議会議長の「第2青函トンネル構想」については、当時は批判的な論調が多く、ポータルサイトのアンケートでは約9万件の回答中、約7万件が「不要」、約1万5,000人が「必要」だった。このときの論議の中心は、「新幹線と貨物列車のすれ違いのため、トンネル内で新幹線の減速が必要。それを許容できるか」であった。
当時の国土交通省の試算では、第2青函トンネルの工費として、複線で約5,800億円、単線で約5,000億円だった。これが費用対効果の面で疑問視される理由になった。また。青函トンネルはJR北海道の管理所有物であり、国が維持費に約10億円を補助しているとはいえ、JR北海道の負担も大きかった。さらにいうと、JR北海道は一連の不祥事の渦中であったとはいえ、新幹線区画の貨物列車に在来線貨物列車を搭載する「トレイン・オン・トレイン」などの構想が生きていた。トンネルを掘らなくても、工夫すればなんとかなるという考え方もあった。
しかし、北海道新幹線の開通が近づくにつれて、状況は変わってきた。まず「トレイン・オン・トレイン」をはじめ、JR北海道の新しい研究は安全対策費用優先のために停止した。北海道新幹線についても、東京~新函館北斗間の所要時間が4時間を切れなかったことで落胆する声も大きくなった。北海道新幹線のスピードアップと貨物列車の増便は、現在の青函トンネルでは難しい。
さらに、工法と建設費の見直しがある。鉄道路線強化検討会は「単線で約3,900億円」という数字を出した。2年半前の見積もりよりも約1,000億円以上も圧縮されている。現在の青函トンネルのような海底の下にトンネルを掘る方法ではなく、沈埋工法という新しい作り方が実現したからだろう。海底に沈埋函(トンネルの枠組み)を降ろしていき、つなぎ合わせ、水を抜く。
沈埋工法は、大成建設がトルコ・イスタンブールのボスポラス海峡で手がけ、水深60mという世界最深記録を作った。しかし津軽海峡はもっと深い。最深部140mだ。これは熊谷組が開発した「大水深構造物沈設システム」が解決しそうだ。従来の沈埋工法は、沈埋函を正確に降ろすための測量塔が必要だった。この測量塔は水深以上の長さにする必要がある上、潮流の影響を受けやすい。沈埋函の設置後、解体時に潜水作業が必要になる。熊谷組の「大水深構造物沈設システム」は、測量塔の代わりにソナーとGPSを使う。測量塔がないため深い場所にも対応し、潮流の影響が少なく、潜水作業も不要になる。
青函トンネルの開通から今年で29年。技術は進歩している。そして青函トンネルへの期待も大きくなってきた。先月の豪雪で航空便が運休したときは、札幌~新函館北斗間の特急列車と北海道新幹線へ迂回する人で大混雑となった。北海道新幹線の有用性が実証されたといえる。また、今回は日露経済協定に盛り込まれなかったけれども、シベリア鉄道の北海道延伸をはじめ、貨物列車の増発にも青函トンネルは容量不足だ。
大規模な建設プロジェクトの話題になると「箱物行政だ」などの批判が上がる。使い道のない建物を見切り発車で作ればたしかにその通り。しかし第2青函トンネルは違う。新幹線の高速化、貨物列車の増発という利点は明らかだ。あとは費用対効果の適切な判定と、判定を有利にするための建設技術の進化、その結果としてのコスト削減が重要だ。
東北・北海道新幹線の高速化については、盛岡駅以北の整備新幹線区間の上限速度260km/hを引き上げるほうが効果的という意見もある。たしかにその通りだろう。しかし青函トンネルの高速化と整備新幹線区間の高速化は、本来は二律背反の関係ではない。両方とも実行して、最大限の所要時間短縮をめざすべきだ。
筆者は「第2青函トンネル」の建設には賛成だ。単線だけではなく、複線も検討してもらいたい。北海道新聞は「鉄道路線強化検討会は賛同者を広く募り、世論を形成したい考えだ」と記した。賛否両論の意見が活発に交換され、問題を解決し、実現に向かってほしい。その技術は他の地域も待っている。関門トンネルは更新が必要だし、四国新幹線は大分へ延伸したい。海外の海峡にも進出できる。
「第2青函トンネル」は日本の技術力を世界に見せるチャンスでもある。国家の戦略の一環として、ぜひ実現へ向けて取り組んでいただきたい。