Firefoxが登場するまでの経緯

いまでこそFirefoxの名は知られ、特に欧州では一定のシェアを維持するまでに成長しているが、その船出は揚々たる……というには遠かった。その背景には、米Netscape CommunicationがAOLに買収されて以降、驚くほどのペースでシェアを落としてしまった事実がある。

シェアが下降した原因は複合的なもので、競合関係にあったブラウザ (いうまでもなくInternet Explorer) が順調に機能を強化していたこと、HTMLエディタやメール / ニュースリーダ機能が加わるなど肥大化により操作性が低下していたこと、企業としてのマーケティング戦略が上首尾には進まなかったことなどが考えられる。もっとも、AOLがNetscapeブラウザの事業を終了した現在、その要因を突き止めることに特段の意味はない。

記念すべき「Mozilla 1.0」のスプラッシュ画面

静かに消え去る可能性もあったNetscapeのブラウザだが、AOLに買収される前年の1998年3月末 (発表は1月)、Netscapeは「Netscape Communicator」のソースコードを公開する、という大きな賭けに出た。Mozilla Foundation議長のMitchell Baker氏に、Mozilla / Netscapeがオープンソース化されていなかったら現在は? という仮定の質問をしたとき、彼女は次のように答えている。

2000年から2003年にかけては、1つのブラウザによる寡占状態にあり、ブラウザには競争が存在しませんでした。その結果、ポップアップウインドウやスパイウェアが蔓延するなど、消費者は悲惨な状況に置かれていました。(競争がない状態の) Internet Explorerはメンテナンスが行き届かず、マルウェアが跋扈する温床となったのは必然の成り行きです。オープンソースのMozilla / Firefoxがその停滞した状況を再び競争へと変え、セキュリティの向上や機能革新の点で消費者にメリットをもたらしてきました。

Netscape Communicatorのソースコードが公開された当時、Netscape Navigator 4.0 / Communicator Standard Edition 4.0の無償化が主で、オープンソース化が従であるかのような報道を目にしたが、現実はそうならなかった。要は、Mozilla (後のFirefox) の出現が停滞していたWebブラウザ界に"喝"を入れたのであり、その契機となったのがオープンソース化、ということだろう。

Mozilla 0.6 (Windows版) で現在のマイコミジャーナルのページを表示したところ

「Mozilla」から「Firefox」へ

そのMozilla / Firefoxだが、Netscapeの技術がそのまま引き継がれたわけではない。当初公開されたNetscape Communicator 5.0ベースのソースコードは、拡張が難しいなどさまざまな問題を引き起こしたため、一度放棄されている。Netscapeは、1997年に買収したDigital Styleの描画エンジンをベースに、新しいレンダリングエンジン「Gecko」を開発、それが現在のMozilla / Firefoxの直接の祖先となっている。

現在ある開発プロジェクトとしてのMozillaは、Netscapeの支援 / 出資のもと1998年に設立されたMozilla Projectが原点となっている。大半はNetscape社員で構成されるが、Netscapeから独立した形で運営され、開発成果は (AOL買収後の) Netscapeブランドのブラウザに反映されることとなった。

当時を伝えるニュースをいくつか紹介してみよう。2002年6月に「Mozilla 1.0」がリリース、続く8月に「Netscape 7.0」のリリース。シェア回復には結びつかなかったが、開発はMozillaでマーケティングはAOL / Netscape、というエコサイクルができあがっている。オープンソースゆえの開発の速さも、そこにはプラスに作用したに違いない。現在のFirefoxの原型である「Phoenix」も投入されるなど、前述した"喝を入れる"アクションは、この当時すでに始まっていたといえる。

その流れが一変したのが2003年。反トラスト法訴訟で争っていたAOLとMicrosoftが和解、一転してInternet Explorerの技術供与を受けることが可能となった。それが直接影響したかはわからないが、ほどなくしてNetscapeのブラウザ開発部門は大幅縮小、Mozillaプロジェクトは「Mozilla Foundation」を設立して完全に独立した事業体となった。

記念すべき「Mozilla 1.0」 (画面はMac OS X版)

次回は、「標準」と「セキュリティ」をキーワードに、これまでのFirefoxの歩みを紹介する予定だ。