歴史の証人はかく語りき

ワープロにせよ表計算にせよ、あらゆるソフトウェアは進化し続けている。その背景には、ハードウェアの性能向上や、OS / 開発環境など基盤ソフトの機能強化があるが、一方ではそれをはるかに越える勢いで革新を遂げたソフトウェアもある。Webブラウザは、間違いなくその1つに数えられるだろう。

Mozilla Foundation議長 (元Mozilla Corporation CEO) のMitchell Baker氏は、「1994年頃と現在を比較してWebブラウザはどのように変わったか」という筆者の質問に対し次のように答えた。

Mozilla Foundation議長のMitchell Baker氏

「同じブラウザという名前はついていますが、昔と今のブラウザは大きく異なります。Webの黎明期には、ブラウザのできることはかぎられ、静的なページの間を旅していたにすぎません。今日、ブラウザは我々がやりたいことを助けるパーソナルツールへと進化しつつあります」

Mozillaプロジェクト始動時からの主要メンバーの1人であり、現在コミュニティ・デベロップ部門の責任者を務めるAsa Dotzler氏にも同じ質問を試みた。Dotzler氏もブラウザがいまや人々が生活するうえで重要なツールに成長していることに触れるなど、基本的にはBaker氏と同主旨の回答だったが、より役立つオンラインアプリケーションとよりよいユーザ体験を得られる方向に進んでいることを指摘したうえで、Webデベロッパとユーザそれぞれにもたらされた利点について答えてくれた。

「Webデベロッパにとってもっとも重要な変化は、JavaScriptの機能強化と、CSSおよびHTMLの改良、そしてそれらを実現するWebブラウザの性能向上でしょう。これらの変化がなければ、Webは10年前とさほど変わらず、今日のようなリッチ・プラットフォームとしては存在していません。ユーザにとって最重要の変化は、より安全で使いやすく、パーソナルな方向にWebの機能が進化したことでしょう。タブブラウズや統合された検索機能、そしてアドオンサポートのような個人向け機能は、ブラウザを大きく進歩させています」

Mozilla Corporationでチーフエヴァンジェリストとして活躍するMike Shaver氏も、Dotzler氏と同様、JavaScriptが果たす役割の大きさについて触れている。

「Brendan Eich(※)がJavaScriptを生み出し、Webの文書とプログラムを統合してからというもの、人々はインターネットの力を使う斬新で驚くべき方法を発見し、まったく新しい産業を創出してきました。10年前にはほとんど知られていなかったブラウザを使い、写真を世界中の何億もの人々と共有し、何十種類もの言語で百科事典を共同制作することが、いまや当たり前となっています」

※Brendan Eich: JavaScript言語を創り出した人物。現Mozilla Corporation CTO兼Mozilla Foundation理事

Webブラウザのどこが進化したか

Webブラウザが進化する様子を間近で見てきた3人の意見を要約すると、「この10年でWebブラウザは劇的な進化」を遂げ、それは「JavaScriptおよびHTML / CSSの実装の進歩」に支えられている、ということになるだろうか。確かに、10年前と比較してWebブラウザの表現力は大幅に強化され、Ajaxが普及して以来、Webブラウザ上で実行されるアプリケーションのバリエーションは増している。

ごく簡単にではあるが、Firefox登場以前のMozilla系Webブラウザ (Netscape Navigator / Commnunicator) の機能の変化、およびそれを取り巻く状況の移り変わりをまとめたものが表1だ。当時からWebブラウザを利用していたユーザならば記憶しているかもしれないが、Netscape Navigatorの時代はJavaScriptよりJavaアプレットの実行環境が重視されていたり、3Dオブジェクトを扱うための仕様「VRML」が注目されたりなど、当時有望視されていた技術がそのまま進化してきたわけではないことがおもしろい。

表1: Netscape Navigator / Commnunicatorの機能の変遷

1994年12月 Netscape Navigator 1.0 Netscape Navigator最初のリリース (コード名: Mozilla)
1996年2月 Netscape Navigator 2.0 Javaアプレットのサポート。メール / ニュースリーダの統合。日本語など各国語に対応したローカライズ版の提供を開始した
1996年8月 Netscape Navigator 3.0 JITコンパイラの搭載など、Java実行環境の強化。JavaScriptについても、外部ファイルに保存可能となる (SRCオプションの追加) など大きな拡張が施された。VRML 2.0がサポートされた
1997年6月 Netscape Communicator 4.0 CSS1の部分的なサポート。HTMLの独自拡張
1999年12月 - JavaScriptとJScriptを国際標準化した「ECMAScript 3 (ECMA-262)」が公開

Netscape Navigator 2.0.2 (ja) のAbout画面

Netscape Communicator 4.79でマイコミジャーナルのトップページを表示したところ。非対応ブラウザと判定され利用できない

次回は、Mozilla Firefoxを通じて、Webブラウザ進化の歴史をもう少し掘り下げる予定だ。