近鉄大阪線は大阪上本町駅と伊勢中川駅を結ぶ108.9kmの路線だ。大手私鉄としては2番目に長い。1位の東武伊勢崎線を東の横綱とするなら、近鉄大阪線は西の横綱だ。
東武伊勢崎線は複々線がある一方で末端は単線になるけれど、近鉄大阪線は全線複線化されている。この立派な設備は、名古屋・伊勢志摩方面の特急列車を頻繁に走らせるためだ。大阪都心を除いて、ほとんどの区間が徹底した「特急優位」。ダイヤを描くとノンストップ特急の線がまっすぐで清々しい。
赤は特急、青は急行と準急、緑は快速急行、黒が普通列車を示している。全区間を1日に圧縮してみた。真っ赤である。朝から晩まで特急列車の運行が多いとわかる。東武伊勢崎線と比較してみると、路線の性格の違いがよくわかる。近鉄大阪線の主力列車は特急列車だ。平日の特急が多い理由として、伊勢志摩方面の観光客や大阪~名古屋間のビジネス需要が見込めることなどが考えられる。近鉄特急は都市間連絡を重視しているため、多くの利用者が特急列車を選択しているようだ。
近鉄大阪線と他の路線との関係略図。この図では省略したけれど、橿原線の南側と大阪線の大阪上本町方面をつなぐ回送用の線路もある |
近鉄特急の始発駅といえば大阪難波駅である。しかし大阪線の起点は大阪上本町駅だ。大阪難波~大阪上本町間の正式な路線名は難波線である。大阪線の列車のうち、特急だけが大阪難波駅へ直通している。他の列車(一部特急も含む)はすべて大阪上本町駅が起点となる。
大阪線の終点は伊勢中川駅。ここから松阪・伊勢方面は山田線、名古屋方面は名古屋線だ。大阪と名古屋を結ぶ特急列車は伊勢中川駅を経由しない。伊勢中川駅の大阪寄りから短絡線が分岐しており、名古屋線につながっている。大和八木駅は橿原線と立体交差しているが、こちらも短絡線を設置し、京都方面と伊勢志摩方面を結ぶ特急列車が直通する。
朝の時間帯を拡大してみた。さすがに通勤通学時間帯は準急や普通が多く、特急列車が入る隙間が少ない。上りは快速急行、下りは急行が主要駅間の速達サービスを担当する。準急は大阪上本町駅に近いほうの小駅を通過し、大阪上本町駅から離れた駅は各駅に停まる。普通列車は大阪上本町寄りに多く設定されて、準急通過駅を補完する役割を持っている。
日中は特急が多い。急行は料金不要の速達列車として設定されているけれど、特急に比べると1/4程度の運行だ。長距離路線のため、都市間を最速で結ぶ特急を優先させているのだろう。普通列車は全線を直通しない。急行や特急との乗継ぎを考慮した短距離運転になっている。11時付近に見える茶色の点線は観光特急「しまかぜ」だ。大阪難波発の列車が全区間を走行する。
その少し前に、大和八木駅から伊勢中川駅へ向かう「しまかぜ」もある。京都駅発の列車だ。大和八木~伊勢中川間は京都発の伊勢志摩方面特急列車も合流するため、最も特急列車の多い区間となる。まるで特急ラッシュだ。
大和八木~名張間は日中の普通列車がない。これでは小さな駅の利用客は不便だろうと思うけれど、この区間は準急が各駅に停まり、普通列車の役割を担っている。列車ダイヤ描画ソフト「Oudia」には、通過タイプの列車について停車駅に印を付ける機能がある。そこで準急以上の列車の停車駅を表示してみた。
このように、ほとんどの準急は大和八木~名張間の各駅に停まっている。しかし、大きな駅の利用客にとっては、「準急は各駅停車同然で遅い」となる。だから速達タイプの列車に人気が集まるわけだ。
ダイヤの上のほう、大阪上本町駅と布施駅との間は列車の密度が高く、濃い帯のように見える。この区間では奈良線の列車も走るからだ。奈良線と大阪線はそれぞれ独立した複線を持っているので、奈良線の列車も大阪線のダイヤに表示すると、同じ方向で速度の違う列車や、同時刻発着の列車が重なって見える。
伊勢中川駅付近を見ると、同じ方向の特急列車同士、あるいは特急列車と普通列車が接近している。このパターンは大阪~名古屋間を結ぶ特急列車が絡んでいる。時刻表で、名古屋方面の列車は伊勢中川駅を通過する印になっていた。終点が通過印ではダイヤを描けないので、実際に乗車したときに計測した所要時間や他の列車の所要時間をもとに、推測した時刻を伊勢中川駅に入力した。実際は伊勢中川駅の大阪寄りで名古屋線との短絡線に入るため、接近していない。
特急列車の赤い線を追ってみたら、面白い現象を見つけた。21時45分頃の名張駅で、特急列車同士の追い越しがある。大阪上本町駅20時53分発の特急列車(松阪行)が名張駅に4分間停車し、その間に大阪上本町駅21時3分発・近鉄名古屋駅23時10分着の「アーバンライナー」が通過する。「アーバンライナー」は停車駅が少なくスピードも速い。近鉄の看板列車のひとつだ。そのスピードを生かすために、停車駅の多い特急を追い越す必要があるのだろう。大手私鉄で有料特急同士の追い越しはとても珍しい現象だ。