日立アプライアンスが11月19日に発売した、ドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-NX120A」。大容量のドラム槽を装備した洗濯乾燥機として同社が2006年に発売して以来、10年ぶりの大リニューアルが図られた新製品だ。

製品の機構・設計も含めて一から見直しが行われた結果、デザインも大幅に一新された。前編では実物大のペーパー模型による試作のプロセスなどが語られたが、引き続き本製品のデザイン担当の責任者である、日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 製品デザイン部CDP3ユニット 主任デザイナーの大木雅之氏にデザイン面を中心に話を伺っていく。

ユニバーサルデザインを追求

2015年6月頃から開発が始まったこのプロジェクトは、同年秋口にはプロトタイプが完成。年末にはユーザビリティーテストへと移ったとのこと。そして、大容量化を実現した次にこだわられたのは"使い勝手"だ。これを実現するため、デザインは"ユニバーサルデザイン"が追求されていく。

ユーザビリティーといって中でも特に重要なのは"操作部"である。本製品に限らず、最近の洗濯乾燥機は多機能な反面、「機能が多すぎて使いこなせない」「操作方法がわからない」といった声も多く聞かれる。 そこで新製品では、操作ボタンが階層的に配列されている。最も右側に「スタート/一時停止」ボタンがあり、その隣にコースを選択するボタン、左側に詳細設定を行うためのボタン類というように3段階に分けることで操作をわかりやすくしたという。

右から左へ行くにつれてより詳細な設定が可能になるようボタンが整理された操作パネル。「色分けして基本設定は目立たせるなど階層がわかるように整理して配置し、使いこなさなくても右側ボタンだけでも運転できるというふうに、多機能さと、手軽に使いたい人のニーズを両立させるように努めました」(大木氏)

大木氏は「操作ボタンの詳細設定は、不要な人にとってはそれがかえってノイズになってしまう場合もあります。そのため当初は詳細設定をあえて表示させないことも検討していましたが、ユーザー調査を行ってみたところ、何ができるかわからないので、書いてあったほうがわかりやすいという意見も多くありました。そこでマインドを変えて、詳細設定まで全部表示しながらも、基本設定とはわかりやすく区別する工夫をしました」と話す。

操作パネルの仕様も実際に模型にパターンを貼り付けて検討された。その数は数百にも及んだとのことだ

視認性を高めるため、操作パネルの向きや角度にも検討が重ねられた。実は最初の段階のデザインでは、操作パネルは真上の位置にあったという。しかし、模型で検証を続けていく中で「見づらい」、「使いにくい」という意見が大半を占めたことから、最終的には前方にやや裁ち落としをつけた上に操作パネルが配備されたとのことだ。

操作パネルの取り付け角度や高さなどを比較検討するために作成されたサンプルの一例

プロトタイプのモックアップ。最終形に比べると、操作パネルが真上に取り付けられており、それだけでも見た目の印象はかなり異なる

ボディはとことんシンプルに

一方、ボディについてはできるだけフラットでシンプルなデザインであることが追求されたという。「大きなドラム槽を包み込んでいるドラム式洗濯機は、ある程度ボリューム感があるもの。形が複雑だと、サニタリースペースに置かれた際にも圧迫感が出てしまいます。そこでまずは形をシンプルにすることを考えました」と大木氏。さらに角をなくして丸みを持たせた理由は大きく分けて2つある。

「開発途中で模型をいくつか作ってみましたが、幅と奥行きが一緒で丸みが違うものを比較すると、角が小さいほうが大きく見えるんです。角に丸みを持たせることで、よりコンパクトに見せることを検証しながら最大限丸みを付けていきました。置かれた時に角がないというのは、当たってもするっと抜けることができ、動線の妨げにならず、空間にもよりなじませることができるんです」

素材によって光の反射や吸収するレンジが異なるため、色味を合わせるのが特に難しかったという天面部分と前方左右パネルの違い。天面部分のみ樹脂素材が用いられている

また、新製品では高級感を出すため、前面と両サイドの素材に鋼板が用いられている。上に物が置かれる場合などもあるため、天面部分はあえて鋼板にせず、樹脂が採用されているが、特に苦労したのはこの部分の色合わせだという。というのも、鋼板と樹脂のパネルでは光の反射特性が大きく異なるからだ。

「メタリック粉が入っているカラー鋼板は光を吸収・反射するレンジの幅がプラスチックよりも広く、照明や見る角度によってもそれぞれの色味が全然違って見えてしまいます。そこで、異なる照明環境や置き方を何パターンもテストして、それぞれが最適な色や明るさになるように色合わせするのに苦労しました」

使い勝手のために「裏側」も再設計

その他にもメンテナンス性を向上するためのデザイン・設計変更も行われている。その1つが洗剤投入口だ。

使いやすさや清掃性を高めるために、角の丸みを大きく取るなど改良された洗剤投入口

「洗剤投入口は従来は縦長でしたが、横長になりました。これは2011年に発売した『ビッグドラム スリム』シリーズで既に採用されて好評だったタイプを継承しました。今回変更したのは投入口の1つ1つの角を少し大きめにして、洗剤をこぼしても簡単に拭き取りやすくするなど清掃性も向上させるデザインを採用した点です」と大木氏。

「新しいビッグドラムの造形は、四角いボディに丸いドアというドラム式洗濯機の象徴的なかたちをベースにシンプルにして、角に丸みを持たせて仕上げた。ボリューム感がある程度出るからこそ、シンプルにして空間になじませることが大事」と、新製品のデザインコンセプトを語る大木氏

また、従来の製品ではドラム槽の下に配備されていたメインの電気基板のユニットが上に移動している。防水パンの排水溝の位置によっては洗濯機の設置の際や修理・補修時にこのユニットが邪魔になることがあったのを改善するというのが変更の理由だが、「使い勝手を向上させるため、またデザイン的にドラム槽はなるべく高い位置にしておきたいんです。しかし、ユニットを上に持ってくることでドラム槽の高さに制約が生じてしまうため、少しでも高くできるよう設計者と一緒にギリギリのところまで調整しました」と、デザインと機能性の両立で最も苦労したエピソードとして挙げた。

「使いやすさ」と「わかりやすさ」

このように昨今のデザイントレンドから見ると、一見すると少々突飛なデザインにも感じられた日立のビッグドラムの新製品だが、デザインの神髄として貫かれているのは"使いやすさ"と"わかりやすさ"だ。「それらを第一に考え、デザインをアジャストさせていったのがこのかたち。それと同時に、シンプルさや、やさしさといった昨今のデザイントレンドも取り入れており、決して潮流から離れてはいないと考えている」と、今回10年ぶりにリニューアルされた新製品のデザインを評した。