前回から、地デジテレビのリモコンはなぜ使いづらいのかという話をしている。「使いやすいリモコン」というと、数字キーが大きくて、数字が見やすいものを連想する人は多いだろう。その発想は間違いではないと思うが、現状からは少しづつずれ始めているのではないかと思う。というのは、今、選局をするときに、直接番号ボタンを押すのではなく、電子番組表から選ぶということが増えているし、今後もますます増えていくと思うからだ。この傾向はチャンネル数が増えれば増えるほど顕著になっていくと思われる。

地デジ放送そのものはチャンネル数は増えないが(むしろ事実上減ってしまう地域も多い)、テレビを買い替えるのを機にBSデジタルやCS放送が観られるようになったり、WOWOWやスカパー!、ケーブルテレビなどの有料放送の契約をする人も多いだろう。一気にチャンネル数が増えるので、直接チャンネル番号を入力するのはほとんど不可能になっていく。 また、地上波もアナログ放送のときとは番号が変わっている地域も多く、地デジのチャンネル番号に戸惑っている人も多いだろう。関東地区でいえば、アナログ時代は基本的に偶数番号だった。アナログ時代のチャンネル番号は、ラジオのチューニングダイアルと同じで、ただ放送のある周波数の場所に「4、6、8」などのわかりやすい番号を振っただけのものだ。そのため、5チャンネルと6チャンネルは周波数が近いために、混信する危険性を避けるために、1番おきに配置されている。しかし、デジタル放送では、多少の混信が起こっても映像や音声が乱れることはないので、番号が連続するようになった。たとえば、以前10番だったテレビ朝日は5番に、以前12番だったテレビ東京は7番になった。

BSデジタルは、ほぼ1番から12番まで連続して番号が割り振られているが、これは短縮番号で、本来は3桁の番号が割り振られている。たとえばNHKハイビジョンは103番だし、BSフジは181番、WOWOWは191番だ。CSになると短縮番号はなく、001番から991番までが割り振られている。この3桁の番号になると、よほどよく見るチャンネルでなければ記憶しておくのは不可能だ。

このような理由から、リモコンの番号ボタンは次第に使われなくなっていく傾向にある。では、なにを使ってチャンネルを選んでいるかというと、多くの人は電子番組表から選んでいると思うが、機械にうとい人は「選局ボタン」(上下に1チャンネルずつ切り替えていくボタン)を使っているのではないだろうか。電子番組表の使い方は難しくなく、便利だが、機械が苦手な人にはハードルが高いかもしれない。「様子ががらりと変わる操作」は不安になるものだ。それまで放送が表示されていた画面が、まったく違った番組欄の表示になると、驚いてしまうし、「元の放送画面に戻れなくなる」と不安になってしまう。

この点で、素晴らしい工夫をしているのが、パナソニックのビエラのリモコンだ。このリモコンには「元の画面」というボタンがついている。電子番組表を表示していようと、設定画面にしていようと、あるいはうっかりどこかのボタンを押してしまって、なんだかわからない画面になってしまおうと、「元の画面」ボタンを押しさえすれば、放送画面に戻ることができるのだ。惜しむらくは、ボタンが小さく、他のボタンと似たデザインなので、この素晴らしいボタンの存在に気がついていない人が多いのではないかと思われることだ。もし、みなさんの周辺に機械が苦手な人でビエラを使っている人がいたら、そのボタンの存在を教えてあげてほしい。

それでも、従来のアナログ放送に慣れているお年寄りなどは、電子番組表を使おうとせず、昔のロータリーチャンネル感覚の選局ボタンを使おうとするだろう。CSやケーブルテレビに加入している場合は、さすがにたいへんだが、地上波とBSデジタルぐらいであれば、選局ボタンでひとつひとつチャンネルを換えていってもどうにかなる。しかし、これにもトラップがあって、それはマルチ編成だ。

地デジの放送は、1チャンネルでハイビジョン放送をひとつ放送することができるが、標準画質放送であれば3番組を流すことができる。教育テレビや放送大学などでは、再放送を増やすために、3番組流していることもあるし、スポーツ中継が延長になったときに、メインチャンネルでは通常番組、サブチャンネルでは中継を継続するなどという使い方ができる。つまり、従来の感覚でいうと、1局で3チャンネル分放送できるのだ。

選局ボタンを使って、ひとつひとつチャンネルを換えていくと、この3チャンネル分もひとつひとつ変わっていくので、何度もボタンを押さないと、別のチャンネルに進めない。マルチ編成を指定しない場合は、選局ボタンを何回押しても、同じ放送が表示される。さらに、受信できないチャンネルの場合は、なにも画面が表示されない。機械が苦手な人にとっては、チャンネルが変わらなかったり、映らなかったりするので、選局ボタンも困惑してしまうのだ。

これにはひとつ解決方法があるが、ある程度機械に強い人がマニュアルを読みながらでないとできないだろう。もし、可能なら家族や親のためにしてあげてほしい。その解決法とは、「スキップチャンネルの設定」だ。多くのテレビには、電子番組表や選局ボタンを使うときに、不要なチャンネルをスキップする機能がある。設定は多少面倒だが、これをやっておけば、選局ボタンを押すだけで、次々とチャンネルが換わっていくようになる。ここまでやれば、お年寄りだって、機械の苦手な人だって、リモコンの操作が難しいとは感じなくなるし、ホームセンターで販売されている簡単リモコンだけでテレビを見られるようになる。

デジタル製品の特徴は、たくさんの機能を詰めこめることだ。パソコンや携帯電話は、計算機と電話以外のさまざまな機能が詰めこまれている。その反動として、どうしても操作が複雑になり、基本的な機能さえ使いこなせないという人が出てきてしまうデメリットがある。しかし、自分で設定をして、不要な機能を削り落すことで、使いやすくもできる。これもデジタル製品の特徴だ。

この記事をお読みの方は、おそらくデジタルリテラシーが高い方が多いと思う。周りの人のために、ぜひスキップチャンネル設定をしてあげてほしい。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。