携帯電話の請求書をよく見ると、「ユニバーサルサービス料」という項目があり、月額8円が請求されているはずだ。この請求については、ご存知の方も多いだろう。電話は国民的なインフラなので、「離島や僻地などの施設コストが高くつく地域に電話を引く必要はない」というわけにはいかない。一方で、一般の民間電話会社は、このような高コスト地域には電話サービスを提供せず、NTT東西がその事業を担っている。そこで、このような高コスト地域での事業から生まれる損失を、電話利用者全員で負担しようという制度だ。

額は毎年度異なる。NTT東西の負担事業に補填すべき額を計算し、これを電話番号(昨年は1億8990万番号)で割って計算をする。月額8円、年額96円という小さな額だが、全体では188.7億円という額になる。この額は当然毎年異なり、6円だった年も7円の年もあった。

額も小さいうえ、まさか「僻地に電話はいらない」と考える人は少ないだろうから、多くの人はこの制度に反対はしないだろう。毎月の請求書に、この制度のためにいくら払っているかが明確に記載されているし、電話制度を維持するために必要な予算を、電話利用者が負担するというのは、納得がいきやすい。

ところが、携帯電話の請求書の中に、明確に記されていない負担金も存在して、これが年額250円(批判が相次ぎ値下げされてこの額になっていて、年額640円の時代もあった)もあるのだ。ユニバーサルサービス料のように項目が別立てになっているわけではなく、使用料金のうちに含まれてしまっているので、取られていることすら知らない人がけっこういる。しかも、ユニバーサルサービス料のように電話のために使われているのならともかく、これがテレビの地デジ化をするための大きな原資となっているのだ。地デジ化に関わる費用は、携帯電話ユーザーが負担しているといっても間違いにならない。まるで、自動車税で新幹線網を整備したり、たばこ税で公園を造るというぐらいかけ離れた話だ。これが電波利用料と呼ばれるものだ。

電波利用料の収入は、平成20年度で約750億円。電波利用料の制度が始まった平成5年度には約73億円だったから、15年で10倍以上伸びるというドットコムバブルもびっくりの成長制度だ。電波利用料がここまで急激に伸びたのは、いうまでもなく携帯電話が急激に普及したからに他ならない。

この電波利用料の徴収額をグラフにしてみた。驚くべきは携帯電話から徴収されている利用料の割合だ。このグラフに入れたのは「包括免許等」「広域専用電波」という項目を合計したものだ。このふたつの項目には、携帯電話以外にも衛星携帯電話やMCA無線なども含まれているが、ほとんどが携帯電話だと考えていいだろう。電波利用料の約80%が携帯電話から徴収されている。

一方で、テレビ局はどの程度の額を支払っているのか。地をはうように伸びているのが、テレビ、ラジオ放送からの電波利用料だ(この他に通信衛星などからも電波利用料は徴収されている)。平成20年度で7億8900万円。わずか全体の1.1%にしかすぎない。ただし、テレビ局は平成15年度から毎年約30億円の追加負担をしている。これは地デジ化する準備として、地上アナログ波の周波数を移すという「アナアナ変換」と呼ばれる事業が行われた。それを放送局も負担すべきだとして、暫定的に追加された利用料だ。もちろん、地デジ化が完了すれば消えることになっている。

このアナアナ変換は、当初727億円程度という見積りで行われたが、結局1800億円を超える見込みになっている。テレビ局が負担するのは、毎年30億円を8年分、合計240億円程度だ。一方で、電波利用料からは毎年70億円程度がアナアナ変換に支出されている。

携帯電話とテレビ放送では、使っている電波帯は、テレビの方が1.5倍ほど多く使っている。それなのに、支払う電波利用料は、テレビは携帯電話の1/10以下であることはあきらか。これは不公平極まりないと、あちこちから声があがっているし、これを是正しようという動きも始まっている。

しかし、根本的な問題は、負担額が多い少ないということではなく、電波利用料の考え方そのものにあるのだ。

電波というのは、国民の共有財産だし、土地と同じように、無秩序に自由に使うというわけにはいかない。当然、国民の役に立つ使い方を優先し、その他のあまり役に立たない使い方は排除していかなければならない。国有の土地があったら、そこに保養所など国民の役に立つものを建てるのはいいが、個人の住宅や個人商店などは建てさせないという考え方だ。この考え方は決して悪くない。

しかし、「そのためには管理をしなければならない。管理をするにはお金が必要だ」というわけで、電波利用料が生まれた。つまり、正確に言えば電波利用料というよりも、電波管理費なのだ。

こういう発想なので、「無線局ひとつあたりいくら」というのが基本的な考え方になった。テレビ局の無線局=テレビ塔は全国でも2万局程度だが、携帯電話は1台1台が電波を発する無線局だから、1億台近くある。もちろん、発射する電波の強さやひとつの無線局の利用者数などを考慮して、テレビ塔の場合は最高で3億6000万円程度、携帯電話の場合は250円と差はつけられているものの、数の規模がまったく違うので、どうしても携帯電話全体の負担額が大きくなってしまうのだ。

これに対して、「無線局ひとつあたりいくら」という考え方をやめて、「使用している電波帯域の大きさに応じて利用料を決めるようにすべき」という声もある。理にかなった意見で、これに従えば、テレビ放送は携帯電話の約1.5倍の電波帯を利用しているので、現在携帯電話関連業界が支払っている利用料約630億円の1.5倍、940億円程度を放送業界は支払うことになる。現在支払っている額の約25倍だ(アナアナ変換負担の暫定分を考えなければ、120倍にもなる)。

しかし、これはこれで、電波利用料制度の考え方から外れてしまうのだ。電波利用料をなぜ徴収するか。それは電波を管理するコストを分担するためだ。携帯電話はとにかく数が多いので、管理コストがかかる。管理のいちばんの仕事は、違法電波の監視だ。携帯電話を個人で改造して、出力をあげるとか、そういうことも見張って取り締まりをしなければならない。一方で、テレビ放送の無線局がそのような悪さをすることを常識的には考えられない。つまり、無線局の数が多ければ、それだけ管理コストは膨らんでいく。だから、無線局の数に応じて利用料を徴収する現在の電波利用制度は、それなりに筋は通っていることになる。

問題は、徴収単位の考え方ではなく、「そもそもなんのために電波利用料を徴収するのか」というところにある。次回は、この電波利用料の目的の話をしてみたい。

電波利用料は、電波を発する無線局すべてから徴収される。携帯電話も1台1台が無線局なので、年額250円ほどが徴収されている。電波利用料全体の8割は、携帯電話からの収入だ。この電波利用料から、アナアナ変換などの地デジ化の準備のための資金がだされた