今年の5月から始まったエコポイント。特に効果があったのは薄型テレビだといわれ、昨年同月比で50%以上売上が伸びた月もあった。

色のついた部分がエコポイント期間。あきらかに普及台数に力強さがでてきている。(NHK調べ「地上デジタル放送の普及状況をグラフ化)

ところが総務省の調査によると、10月末時点の普及台数は6085万台(目標6040万台)と好調だったものの、9月時点での世帯普及率は69.5%(目標72%)と下回る結果になってしまった。つまり、エコポイントでテレビがバカ売れしているのかと思っていたら、それでも目標には達しなかった。どういうことなの? 目標値が高すぎたんじゃないの? とだれもが思うわけだ。エコポイント制度は来年2010年3月末までに購入したテレビが対象だが、すでに延長する話もでてきている。エコポイントでテレビ購入を促進しても目標普及率を達成できないのだから、継続するどころか、2011年7月のアナログ停波まで、継続するだけでなくポイントもあげなくてはいけないかもしれない。しかし、エコポイントの経費はもちろん税金から支出される。事業仕分けで指摘されたように「テレビの買い替えをなぜ公金で行う必要があるのか」という疑問だって出てくるだろう。

エコポイントが導入されて、薄型テレビが売れだしたのは事実だ。NHKが調査した月ごとの販売台数でも、あきらかに5月以降台数が伸びている。それ以前は、年末のボーナス月を除けば、低迷気味であったのが、エコポイント以降明らかに力強さが出ている。ただし、これを「エコポイント効果」と呼んでいいのかどうかは、はっきりといえないところがある。というのは、薄型テレビ以外の地デジ機器(地デジチューナー、録画機、ケーブルテレビ用デジタルSTB、地デジパソコン)も、エコポイント実施以降売れ行きが伸びているからだ。前年同月比の推移をグラフにしてみると、薄型テレビは着実に伸びているが、その他の機器もそれなりに伸びている。もちろん、その他のデジタル機器は、エコポイントなどの優遇政策はない。

これをどう解釈するかは難しいところだが、「薄型テレビに限らず、デジタル機器の売れ行き全体が伸びている」ともいえるし、「エコポイント効果で薄型テレビが売れ、それに引っ張られて他のデジタル機器も売れている」ともいえる。エコポイントの効果がどの程度なのかははっきりとは調べようはないが、少なくとも「効果はほとんどなかった」などとはいえないというのが正直なところだろう。

しかし、問題はデジタル機器の目標普及台数は達成できたものの、世帯普及率は達成できなかったという点だ。2009年3月に行われた調査でのチューナー内蔵テレビの世帯普及率は50.4%で、今回は59%。全体は5000万世帯だから、ここから5000万世帯の8.6%分、つまり430万世帯が新たに地デジテレビを購入したことがわかる。同様に計算してみると、録画機は210万世帯、外付けチューナーは80万世帯、地デジPCは60万世帯、ケーブルテレビ用セットトップボックスは200万世帯が、3月から9月の間に増加したと推定できる。

では、実際にそれぞれの機器は何台ぐらい売れたのだろうか。さきほどのNHKの調査を元に今年の4月から9月までの普及台数を合計して比べてみた。CATV用STBと地デジPCは普及世帯数の増加分すら売れていないというつじつまの合わないことが起こっているが、たぶんこれは普及世帯数のアンケートに答える側が、どのケーブルテレビ用STBがデジタル対応なのか、どのパソコンが地デジ対応なのかがよくわからないという事情があるのだろう。アナログにしか対応していないケーブルテレビ用のSTBや、ワンセグが受信可能なパソコンを「地デジ対応」と回答してしまったケースが相当あるのだろう。注目すべきはテレビと録画機の比較だ。録画機の場合は、増加世帯数と販売台数がほぼぴたりとあっている。ところが、薄型テレビは増加世帯数よりも200万台近く多く販売されているのだ。

これはなにを意味するのか。簡単なことだ。すでに地デジに対応して、リビングのテレビを薄型テレビに代えた家庭が、エコポイントの優遇政策を見て「寝室やキッチンの小さなテレビもこの機に地デジテレビに買い替えよう」「子供部屋のテレビも地デジに」ということなのだろう。つまり、エコポイントのかなりの部分は、2台目、3台目のテレビの購入に使われたり、あるいはずいぶん前に地デジテレビを購入した人が買い替えることに使われたりしたのではないかと推測できるのだ。

もちろん、地デジ対応機器が売れることは電機メーカーにとってはいいことではあるが、本来は地デジ普及率100%に向けてのエコポイント政策だったことを考えると、ちょっと微妙な気がしないでもない。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

普及台数の前年同月比を見ると、薄型テレビも確かに伸びているが、録画機を含む地デジチューナーなども伸びている。これをエコポイント効果により薄型テレビが売れて、それに引っ張られていると見るか、エコポイントがあるなしに関わらず、地デジ関連機器が売れ出したと見るかは微妙だ。(NHK調べ「地上デジタル放送の普及状況をグラフ化)

薄型テレビは普及世帯数の増加が430万世帯であるのに、普及台数は605.3万台もある。かなりの数、セカンドテレビとして買われていることが想像できる。あるいは、そろそろ地デジテレビの買い替えも起きているかもしれない。総務省統計などから作成