「Armadillo-800 EVA」で使えるマルチメディア機能

前回も取り上げた「Armadillo-800 EVA」は、Armadilloとしては特殊な「SoC(System on a Chip)評価ボード」。搭載SoC「R-Mobile A1」が発表されるずっと前、まだ数枚の内部資料しかない段階からルネサスと話が進められたもので、Armadilloとして「SoCそのものを評価する」役割を担う初めての製品です(Armadillo-800 EVA開発の経緯については前回を参照)。

「R-Mobile A1」は多彩な機能を持ち合わせていますが、特にマルチメディア機能が充実しています。ビデオコーデック機能である「VCP1」は、フルHD/30fpsのMPEG-4 AVC/H.264動画をハードウェア処理することができます。また、MPEG-4 AACやHE-AAC音声をハードウェア処理できる「SPU」も搭載されています。LCD表示やHDMI出力と組み合わせれば、デジタルサイネージやセットトップボックスといった機器が実現できます。

カメラインタフェースも用意されており、撮影された入力画像を利用するカメラシステムにも応用できます。CPUパワーを生かした画像処理ももちろん可能ですので、特徴点抽出アルゴリズムを用いて人物や顔などの検出を行うインテリジェントカメラに応用できます。

また、3Dグラフィック処理用としてPowerVR SGX 540が搭載されており、これを利用した3D/2Dコンテンツのハードウェア描画を行うことができます。リッチなGUI画面を持つ機器や、アミューズメント機器には不可欠な機能といえます。

5月に行われた「組込みシステム開発技術展(ESEC 2012)」では、これらR-Mobile A1の持つマルチメディア機能をArmadillo-800 EVAでデモしました。アットマークテクノのESEC2012イベントレポートで動画を見ることができるので、一度見ていただければなめらかに動くのがわかります。

ESEC 2012におけるH.264動画の再生デモの様子

マルチメディア処理を実現するミドルウェア

R-Mobile A1では、マルチメディア機能を利用するためソフトウェアとの間を橋渡しするミドルウェアも充実しています。H.264動画デコード用ミドルウェアでは、全体の制御をサブCPUのSH-4に任せることにより、メインCPUのARM Cortex-A9に負担をかけず効率的な動作を実現しています。3D/2D描画用ミドルウェアでは、OpenGL ES 2.0やOpenVG 1.1といった標準的グラフィックスハードウェアAPIに対応しているため、AndroidやQtなどから手軽に使用することできます。

これらのミドルウェアは、Armadillo-800 EVA向け「マルチメディア評価パッケージ」としてルネサスより提供されています。Armadillo-800 EVAの購入者であれば、どなたでも評価が可能です。詳細は製品紹介のWebサイトを見ていただければと思います。

Armadilloは、本気で開発する技術者に優しくあるために、常にオープンな技術情報提供を行ってきたプラットフォームです。ミドルウェア提供もその一環であり、今後の製品でもこの方針にのっとって更なる展開を目指していきます。

マルチメディア機能コア概念図

R-Mobile A1搭載量産ボード「Armadillo-800」シリーズ

アットマークテクノは現在、R-Mobile A1搭載「Armadillo-800シリーズ」量産ボードを開発中です。SoC評価ボードであるArmadillo-800 EVAはArmadilloにしては大柄なB6サイズでしたが、搭載されているSoC「R-Mobile A1」自体はわずか17mm角。機能特化することでインタフェースと搭載部品を絞りこめば、かなりの小型化を実現できます。動作温度も氷点下から高温まで幅広く対応できますので、開発中の量産ボードは「試作から量産までそのまま使える」組み込みプラットフォームになる予定です。

小型・省電力・耐環境といった魅力はそのままに、マルチメディア機能も活かせる「Armadillo-800シリーズ」。是非ご期待ください。

機能特化した量産ボードを発売予定

10年後の「組み込みプラットフォーム」と「Armadillo」

Armadilloの歩んだ、これまでの10年間。-組み込み機器開発に必要なのは何だろう? 組み込みプラットフォームはどうあるべき? 大きく変える? できるだけ維持する?-尽きることない疑問に悩み続け、ヒントを得てはまた悩む…今から思えば、そんなことの繰り返しだった気がします。

では、これからの10年はどうなるのでしょう-10年後の組み込み機器がどうなっているかは、まだぼんやりとしか見えません。でも、「組み込み機器がなくなる」という極端な未来はあり得ないでしょう。絶対に変わらないことがあるとすれば、「Armadillo=組み込みプラットフォーム」であり続けること、そして「開発者のための技術提供」を続けること。

そこに組み込み機器がある限り、「Armadillo」は続きます。この継続性こそが「組み込みプラットフォーム」に求められる一番の条件。これこそが、私たちがこの10年間で最も学んだことだからです。

著者:花田政弘

アットマークテクノ
開発部マネージャー