Androidとパネルコンピュータプラットフォーム「Armadillo-500 FX」

今ではスマートフォン向けとして誰もが知るところになったGoogle Androidですが、最初に発表されたのは2007年11月5日のことでした。今回はこのAndroidベータ版のリリースと、Armadilloの関係から始めます。

Android発表のニュースが報じられた日、社内でもこの話題で持ちきりでした。携帯電話向けソフトウェアプラットフォームという触れ込みでしたが、オープンソースでLinuxカーネル上で動作し、しかもARMで動作するようだ…となれば、発売済みのArmadillo-500で試そうと盛り上がるのは、エンジニアとして当然のこと。早速SDKを入手しようとしますが、発表直後は公開サーバも大混雑。夜中ダウンロード仕掛けても完了せず…という状態が数日間続き、すべてのファイルが入手できたのは翌週に入ってからでした。11月13日にはカーネルをAndroid対応させるるための方法を見つけ試行錯誤を始めましたが、ナイトライダー(往年の海外ドラマです)を想起させる起動画面で止まってしまい…何日も「ああでもないこうでもない」とやっていました。初めてArmadillo-500でホーム画面を操作できることを確認して歓声を上げたのが、11月22日。他の仕事の合間での作業でしたが、大体10日間くらいで動作させたことになります。

単なる技術的興味から始まったAndroid対応でしたが、これによって次のArmadilloへの視野が広がりました。以前から構想のあった「パネルコンピュータ向けArmadillo」も、Androidが動作すれば興味を持ってくれるユーザーは格段に増えそうだということで、検討を重ね、Armadillo-500モジュールを使用したパネルコンピュータプラットフォーム開発プロジェクトを正式に始動したのが、翌2008年の3月。それから半年ほどの開発期間を経て、「Armadillo-500 FX」は10月末に発売されました。

Androidは正式にバージョン1.0が発表された直後で、世界初のAndroid端末としてHTCからHTC Dream(T-Mobile G1)が発売されたのも同月です。こうした時期ですから、Androidのデモ用として使われることが多いだろうと想定した上で、「Armadillo-500 FX 液晶モデル開発セット」には見栄えのする簡易カラーケースを採用しました。その青いフォルムは、最初期のAndroidデモ機・実験機として様々な展示会や媒体で紹介されましたので、ご記憶の方も多いと思います。

Androidが動作するArmadillo-500 FXとArmadillo-800 EVA

Androidの進化と、Armadilloの進化

「Armadillo-500 FX」発売から4年経った現在、携帯電話=スマートフォンは、4年前では考えられなかったくらい高性能なものばかりになりました。性能・機能面でのユーザーニーズがどんどん高まり、Androidの機能も、それに伴うハードウェアの要求スペックも進化し続けた結果です。2011年にはAndroidバージョン2.3や4.0が発表されましたが、これらを動作させるにはARM11クラスのプロセッサでも、既に時代遅れの扱いになってしまいました。

Armadilloはスマートフォン向けではないので、過度の高性能化に追従していく必要はありません。そうはいいながらも「Open Embedded Software Foundation(OESF)」のようにAndroidを様々な組み込み機器に応用していこうという活動もあり、それによって拓かれる世界も確かに存在しています。また、マルチメディア再生や高機能GUIの動作が可能な「スマートフォン並みの性能」を持つArmadilloを望まれる声も、多数いただいておりました。これにお応えする使命感から、私たちの間でもArmadillo-500シリーズ以来となるハイスペック機を目指そうという機運が生まれました。

ルネサスR-Mobile A1評価ボード「Armadillo-800 EVA」

組み込み機器に使いやすく、スマートフォン並みの性能を持つSoC(System on a Chip)はないか-。Armadilloでは携帯電話向けのベースバンド部を必要としませんので"スマートフォン向けではない"ものを候補として、私たちはより組み込みプラットフォームとして使いやすそうなSoCを可能な限り広範に調査しました。10年に渡りARM搭載ボードを作り続けてきましたので、培われた経験に基づく選定ポイントは多岐に渡ります。機能面ももちろんこだわりますが、「長期供給が望めること」「広い動作温度範囲にも対応できること」といった辺りも、Armadilloブランドとしてラインナップする以上、絶対に外せないポイントでした。

さらに、Armadilloが"誰でも使いやすい"オープンな組み込みプラットフォームであることも、忘れてはならない点です。大口顧客のみをターゲットと考えているSoCでは、特定顧客にしか技術情報が開示されないケースも多々あります。少量生産を行うユーザーの不利にならない提供方法-これが実現できないのなら、いくら性能が高くても"Armadilloにはふさわしくない"のです。

こうした度重なる調査・検討の先に行き着いたのが、ルネサス エレクトロニクスの「R-Mobile A1」でした。ちょうどルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスが統合してルネサス エレクトロニクスが誕生した時期で、ルネサス テクノロジの「SH-Mobile」シリーズと、NECエレクトロニクスの「EMMA Mobile」シリーズ、この両方の技術を融合して生まれた「R-Mobile」シリーズに属するものです。

R-Mobile A1はCortex-A9コア搭載で、多彩なグラフィック・ビデオ機能を持ちます。また、これらの機能をリアルタイム処理を実現するためにSH-4Aプロセッサを使用することができます。メインのARMコアとリアルタイム処理用のSHコアが共存する「ヘテロジニアス・マルチコア」形態、実にイマドキなSoCです。

今回のR-Mobile A1搭載Armadillo、今までのArmadillo製品と決定的に大きく異なることがあります。それは、最初に「R-Mobile A1評価ボード」からラインナップすることにした点です。R-Mobile A1自体が発表されるずっと前、まだ数枚の内部資料しかない段階からルネサスと話が進められたもので、Armadilloとして「SoCそのものを評価する」ための役割を担う必要がでたのです。

Armadilloは"そのまま組み込んで量産できる"プラットフォームであるという基本思想を変えるつもりはありませんが、それに先行して"R-Moble A1評価ボード"となるArmadilloの開発を決定したのです。

まだ世に出ていないSoCを扱うわけですから、それまでの製品以上にメーカーとの情報交換を密にしながらの開発になりました。丸1年ほどの開発期間をかけたR-Mobile A1評価ボード「Armadillo-800 EVA」は、無事に2012年1月に発売されました。

「R-Moblie A1」の多彩な機能

せっかくの評価ボードですから、R-Mobile A1自体の魅力をご紹介したいところですが、今回はさわりの部分だけ並べます。メインコアはCortex-A9、浮動小数点演算プロセッサVFPだけでなく、マルチメディアフォーマットを効率的に処理することができる「NEON」にも対応しています。ビデオコーデック機能である「VCP1」が内蔵されており、前述したようにSHコアでこれをリアルタイム処理することも可能です。また、3D機能としては「PowerVR SGX」を搭載、3D機能が強化された最近のGUIでも楽々動作します。

私どもとしても、こうしたコアの見せ方を工夫しているところです。執筆時点で近日に迫った「組込みシステム開発技術展(ESEC)」(2012年5月9日~11日)には、これらの性能・機能を存分に体感できるデモ群を準備しています。ぜひ、会場でご覧になってください。

R-Mobile A1に内蔵されているコアの概念図

著者:花田政弘

アットマークテクノ
開発部マネージャー