俳優トム・ハンクスの主演映画『ハドソン川の奇跡』(公開中)で映し出される、2009年にアメリカ・ニューヨークで起こった航空機事故の裏側にあった3つの奇跡的な偶然について、航空アナリスト・鳥海高太朗氏が解説した。

エンジンが停止する機内の様子

本作で描かれているのは、奇跡と称された航空機事故の生還劇の裏側。ハンクス演じる主人公のサリー機長は、全エンジンが停止した航空機をニューヨークのハドソン川に不時着させ、乗員乗客155人全員生存という奇跡を起こす。鳥海氏は、世界が目撃したこの事故に、3つの偶然と呼べる奇跡があったと分析する。

その一つ目は、事故の原因であるバードストライク(エンジンに鳥が入り込んで衝突すること)。これは海や川が近くにある空港の近くで起きやすいものの、両エンジン共に停止してしまうことは珍しいようで、鳥海氏も「通常だと起きないですね。今回は両エンジンともにバードストライクが起きるという不運な偶然が重なってしまいました」と語る。

加えて、「今回は離陸してすぐに起きたので、高度がとても低かった」と指摘。仮に高度が高ければ、エンジンが2つ不良になっても近くの空港まで行けるのだが、この事故では160万人が住むマンハッタンの街中に突っ込む可能性があった。鳥海氏は「サリー機長はそれを瞬時に判断し、ハドソン川に不時着させることを決断したのでしょう」と推測している。

二つ目は、着水したハドソン川に泊まっていた船や橋など周囲を巻き込まなかったこと。鳥海氏もこれを「奇跡ですね」と端的に口にする。また、「スピードのある航空機ですので着水してから数百メートル川を滑走する可能性がありました。それに橋もありましたし大きな建物もたくさんあった」と現場の状況を解説し「それを巻き込まずに死者を出さなかったのは、経験のあるサリー機長だからこそ」と称賛している。

そして三つ目は、ハドソン川が凍っていなかったことだ。1月のニューヨークは1年で最も寒い時期で、事故当日の気温はマイナス6度。鳥海氏は「もし川が凍っていて着水した時の角度が悪かった場合、機体が破損する可能性が高かった」と強調し、「水温が氷点下だった場合、川に投げ出されていた乗客が凍死していた可能性がありました」とさえ語る。川が凍結していなかったことに加え、不時着時の角度が完璧だったため、機体が沈まないうちに全員脱出できたことも奇跡だと明かしている。

さまざまな偶然が重なった事故の当事者であり、英雄としてもてはやされたサリー機長。しかし、彼は自身の下した決断によって殺人未遂の罪に問われてしまう。映画では、なぜ誰一人の命も落とさなかった彼が、容疑者になってしまったのか、その裏側に迫っている。

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