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犬は家族のメンバーをランキング付けし、自分より順位の低いと決めた人の言うことは聞かなくなるので、注意しなくてはいけないと言われます。犬の祖先のオオカミはチームで生活をする動物であったため、争いを抑えるためにこのような順位制が取られたと考えられています。一方、猫の世界ではこのような上下関係は存在するのでしょうか。

猫は群れない

オオカミのチームとは対照的に、ネコ科は(ライオンを除き)群れを作らない動物です。野生環境では、幼少期を母親と過ごした後は、発情期以外で他の個体とは関わることはありません。

そのため、猫は犬のような厳格な順位制を取らないと考えられています。実際には、猫の社会では優位なオス猫が現れることはありますが、それは縄張りを主張するために支配的な振る舞いをするためです。順位制を敷く動物のリーダーのように、食事を優先して与えられるような特権は持っていません。

猫社会にも変化が

しかし、猫を取り巻く環境も大きく変化しています。人の歴史の中で、農業が発展するにつれ、害獣であるネズミを捕食する猫は人間と共生するようになります。さらにここ数十年で、猫はネズミ捕りとしての実益を求められるのではなく、家族として家庭に迎えられるようになり、さらに生活環境が変化しました。

それに伴い、猫たちは自然環境で生活していた時よりも、狭いエリアに密集して暮らすようになりました。その結果、自然環境では見られなかった新しい社会が生まれました。

例えば「猫の集会」と呼ばれる、数匹の猫達が空き地や駐車場に集まる会合が目撃されることがあります。これまで考えられていた猫の習性からは、なぜ集会が行われるのか説明することは難しく、実際にその理由ははっきりとはわかっていません。

猫は人を猫だと思っている

また、猫は人を猫(同格)と考えている、と説明されることがあります。その根拠として、犬は人を異なる存在として認識し、犬同士で遊ぶ時と人間と遊ぶ時の行動に明確な違いが認められるからです。

一方猫には、人を異なる存在として認識する行動がありません。猫同士で遊ぶ時と同じ方法で、人とも遊ぶのです。そのため、猫は人を特別視していないと考えられます。猫の基本的な社会観を人にも当てはめると、やはり同格の人間に順位をつけることはなさそうです。

特定の人間だけ攻撃することもあるが……

一方で、飼い主さんから「うちの猫は私だけに激しく攻撃してくる、牙が刺さるほど噛み付いて困る」というような相談を受けることがあります。こういった行動は、あたかも「特定の人だけを下に見ている」「順位をつけているのでは」と感じさせます。

猫同士でも限られた面積の中で猫の頭数が増えると、1匹のはみ出し者が出ることがあります。猫社会からのけ者にされた猫は他の猫から攻撃されるため、非常に用心深くなります。それと同様に猫は時に、ある特定の人間をはみ出し者扱いし、頻繁に攻撃を仕掛けることがあります。

これは順位をつけているのではなく、何かきっかけとなる行動や事故があり、それに対して猫が嫌悪感を持っていたり、猫が不安を抱えているため、攻撃行動を起こしていると考えられます。きっかけや不安を起こす原因を特定し、除去することで攻撃行動の改善を目指します。

まとめ

猫は社会性が高い犬のように、家族内で順位をつけることはしないでしょう。前述の通り、猫は長年単独で生活してきた歴史があること、人を特別視せず同格とみなしていることが理由として挙げられます。しかし、生活環境の変移により猫社会にも変化が起きています。仮説ですが、猫の集会のような場では、地域のリーダー猫を決める会議を行っているのかもしれません。

それと、猫の方が人間順位をつけていなくても、猫の飼い主さんは愛猫に尽くす方が多いですから、人間の方が自分で順位を猫の下につけているのかもしれませんね。

■著者プロフィール
山本宗伸

獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み今年帰国。現在2016年5月に猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialists開院に向けて準備中。