少し前に、猫ひっかき病で米国の女性が失明したというニュースが波紋を広げていました。猫ひっかき病とは、猫だけでなく人間にも感染する病気(人獣共通感染症)です。猫ひっかき病という名前ですがひっかくだけでなく噛まれても感染することがあります。

眼症状は猫ひっかき病の一般的な症状ではありませんが、脈絡網膜炎を起こすことがまれに報告されています。このケースでは、「猫が自分の眼をなめた」と女性は話しています。猫ひっかき病の原因菌(バルトネラ・ヘンセラ)に限らず、眼に細菌やウィルスが感染した場合、失明することは起こり得ます。不衛生なものが入ったときはしっかり洗眼し、眼科医に相談した方が良いでしょう。

猫ひっかき病は、ちょっとかわいらしい(?)名前の病気ですが、重症例では脳炎や数週間痛みが続くこともあるので気をつけなくてはいけません。猫ひっかき病の症状、感染ルートや危険性について解説していきましょう。

原因はバルトネラ・ヘンセラという細菌

バルトネラ・ヘンセラ(Bartonella henselae)という細菌が原因菌です。猫自身はこの細菌に感染していてもほとんど症状を呈さないので、感染しているか否かは抗体検査や遺伝子検査をしてみないとわかりません。

日本の報告では7.2%の猫が猫ひっかき病に感染していたという報告があり、外出する猫や3歳以下の若い猫で感染率が高いことがわかっています。この菌は猫の体内では赤血球の中に潜んでおり、感染猫の血液を吸ったノミによって、または喧嘩により猫から猫へ感染が広がります。

人間への感染ルート

感染している猫にひっかかれる、咬まれることにより感染します。ノミの糞に含まれる細菌が猫の牙や爪につくのではないかと考えられています。そのため、創部を舐められることでも感染する可能性はあるでしょう。

症状

上記の通り、猫は殆ど症状を示しませんが、発熱、食欲不振、傾眠などがみられることがあります。

人間の症状の場合は、猫による受傷後3~10日目に虫刺されのように赤く腫れ、その後リンパ節が大きく腫れてくるのが典型的です。猫にひっかかれた直後に傷に沿って赤く腫れるのは物理的な刺激に対する炎症反応であり、猫ひっかき病の特徴ではありません。

腕をひっかかれた場合はけい部、腋窩(えきか・わきの下)のリンパ節が腫れ、足の場合は鼠径部(そけいぶ・太もものつけね辺り)が腫れます。全身症状としては、発熱、悪寒、けん怠、食欲不振、頭痛など。その他の症状では、リンパ節炎を発症した後に脳炎、心内膜炎などに進行することもあります。多くの場合は自然に治癒しますが、重症例では数週間症状が続くこともあります。

まとめ

この病気の特徴から、多くの猫と接触する仕事(シェルター、動物病院)で感染リスクが高いです。この細菌の抗体を持っている率が一般的な人では4.5%だったのに対し獣医師は11.0~15.0%であったというデータがあります。

この細菌に対するワクチンはなく、ノミ予防の徹底、爪切り、猫を触った後は手を洗う、警戒心が強い猫に近づかないなどの基本的な対策が感染予防になります。免疫力が低い子供や高齢の方は特に気をつけましょう。

■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。Syu Syu CAT Clinicで副院長を務め、現在マンハッタン猫専門病院で研修中。2016年春、猫の病院 Tokyo Cat Specialistsを開院予定。猫に関する謎を掘り下げるブログnekopediaも時々更新。