WOWOWのドキュメンタリー番組『アカデミーを救った"消えない"映画フィルム』の上映会&トークイベントが、このほど都内で行われた。

富士フイルムの平野浩司氏

今年2月にWOWOW『ノンフィクションW』で放送された同作は、デジタル化が進む映画作品の保存問題と、それを解決した日本のフィルム技術者を追ったドキュメンタリー番組。番組では、米・映画芸術アカデミーが"デジタル・ジレンマ"と称して危惧する映画作品の長期保存問題の実情に迫ると共に、富士フイルムが開発したアーカイブ専用フィルム「ETERNA-RDS」が、昨年の第84回アカデミー賞でアカデミー科学技術賞に輝いた軌跡を追う――。

トークショーには、富士フイルムの平野浩司氏と映画評論家のの松崎健夫氏が出席。デジタル化で高繊細になった映像を再現できる性能と長期保存可能な耐久性を持ち合わせ、米・ハリウッドのメジャースタジオが採用している「ETERNA-RDS」の実物を披露した平野氏は、カラー映像を3色分解して白黒フィルムに保存するという同フィルムの利点について、「カラーは経年劣化で退色するが、白黒は銀で残すので劣化しない。500年以上の耐久性があるので一番安全」と力説した。

デジタル化する映画作品の保存問題に焦点をあてた同番組だが、平野氏は「ハリウッドはデジタルを信用していないので、製作前からフィルム保存のための予算を組む」と米国の実情を説明。一方、「日本も2年程前まではフィルムで残していたが、今は磁気テープまたはハードディスク。デジタルデータをフィルムに保存するのはお金がかかるので」と日本映画界の"デジタル・ジレンマ"を危惧し、日常の身近な例として「写真もフィルムの頃よりショット数は増えたが、データ保存しているため何かのタイミングで無くなってしまうことがある。プリントするなど形で残すことが必要です」と語った。

また、「(米・映画芸術アカデミーの)アンディ・モルツ氏とも話したんですが、日本も米国も宣伝が上手い映画がヒットする時代で、じっくり見る映画が減っている」と語った平野氏は、フィルムによる映画製作について触れ、「テレビの2時間ドラマと映画は何が違うのかという点で、映画はフィルムならではの表現力があると思う。心に沁みるようなフィルムのテイストを入れ、デジタルっぽくない絵作りを研究中です」と富士フイルムの新たな試みを明かした。

ノンフィクションW『アカデミーを救った"消えない"映画フィルム』は9月23日(8:15~)に再放送される。