本当に今、住宅購入をすべきなのか?

消費税が2014年4月に8%に引き上げられます。そんな状況下、「2013年9月30日までに契約すれば消費税5%! 来年4月以降の引き渡しでも大丈夫」といった見出し広告が散見される今日この頃。実際のところ、住宅は増税前に買わないと損なのでしょうか? 不動産コンサルタントの長嶋修さんにお話を伺いました。

増税が関係するのは新築物件のみ

―消費税が5%から8%にアップします。アップする3%についてどうお考えですか?

長嶋 私の意見としては、全く気にすることはないと考えています。よく引き合いに出されるのは、1997年4月、消費税が3%から5%に引き上げられた時期のことです。増税前は新築物件が160万戸売れ、翌年は130万戸と売り上げは大きく落ち込み、住宅市場はとても混乱しました。

当時と決定的に状況が違うのは、混乱を避けるため業界団体で「増税前に住宅を買うのがオトク」といったような過剰な煽りをしないということで、紳士協定が結ばれていることです。今回は前回の時のような混乱は少ないと思いますよ。それに消費税が関係するのは、主に新築の物件です。中古は99%が個人間の住宅の売買ですから、消費税はほとんど関係ありません。

あえて増税前に契約をした方がいい人をあげるとすれば、既に土地を持っている人です。消費税は土地には関わらず、建物だけにかかりますからね。実際に、土地を持っていて「いつ建物を建てようか」とタイミングを計っていた人たちの潜在需要には火がついています。

マンションのモデルルームに異変が!

長嶋 それよりも気にするべきは、住宅ローンの金利(以下、金利)動向です。「黒田バズーカ」と呼ばれている黒田東彦日銀総裁の市場政策により、6月に金利が激しく上下動しました。金利の先行きが読めないということで、一時期、マンションのモデルルームに閑古鳥が鳴いていたんです。

住宅ローンというのは、引き渡しの時の金利が適用になります。タワーマンションは今年契約しても、引き渡しが2015年や2016年になるなんていうことが普通にありますから、「そんな先の金利なんて読めないよ」という雰囲気になり、買い控えが起きてしまったんです。今は金利の上下動もが収まったので、買い控えも収まりましたが。

住宅ローン金利は今が最底値

―住宅ローンと言えば、最近、よく「借り換え」の広告を見かける気もしますが……。

長嶋 住宅ローンを利用する人の「パイ」は限られていますから、「パイ」の奪い合いです。とにかく、今は金融機関同士の住宅ローンの競争が激化し、どんどん金利は安くなっています。

―消費者としては、様子を見た方がいいんですか?

長嶋 今以上に金利が下がることはないでしょう。最近、メガバンク3行が「3年固定0.6%」というのを出しましたが、明らかに採算度外視の商品ですが、それでもそういうことをやるのは、「先に“パイ”をとって4年目以降に収支を合わせよう」という発想なんでしょうね。とにかく、今の金利は最底値と考えて間違いありません。

住宅ローン金利は上がる運命にある

―金利は低め安定が長年続いていましたが。

長嶋 1992年ぐらいから、金利が下がるということはあっても上がるということはありませんでした。でも、「金利はもう1ミリも下がらない」というところまできています。

―今後、金利は上がるのでしょうか?

アベノミクスはインフレ率を2%にしようということですから、アベノミクスが成功すれば、現在2%の金利が3.5%~4%になることは確実です。ちなみに、アベノミクスが失敗しても、国債を発行して市場にお金を流すということをやっていますから、国債の価値が落ちて金利は上がるんです。いずれにせよ、今後、金利は上がります。後はタイミングだけの問題なんですね。

だから、今の金利水準(約2%)が3~4%になった場合でも、住宅ローンを払っていけるのか? ということを慎重に検討しておきましょう。先に言ったように、新築物件の場合は契約から引き渡しまでタイムラグがあります。引き渡し時に適用される金利が高くても、契約は数年前にしていますから引き返せないのです。

新築物件市場は、築地市場と同じ

―家を買うタイミングをどう読むか?ということでしょうか?

長嶋 そうですね。ただ、覚えておいてほしいのは、万一、仮に増税前の駆け込み需要があって、一時期住宅価格が上がったとしても、その後、住宅価格は確実に落ちます。なぜなら、「家を買いたい」という需要は意外と一定で、増税前の駆け込み契約の「山」があれば、その後に必ず「くぼみ」ができるんです。

住宅の価格というのは、200~300万円なんて平気で上下動するんですよ。とりわけ新築市場は、イメージでいうと築地の市場のようなもの。「今日は魚が大漁」とか「野菜がたくさん採れちゃった」といったノリで、供給数に対して買う人が少ないと、相場は下がります。

―私たちが思っているよりも、新築物件というのは“生モノ”なんですか?

長嶋 ちなみに前回の1997年の増税の時、私は住宅を売る側でしたけれど、例えば増税前に4,000万円で売っていた物件が、増税後は3,000万円を切ったこともありました。こんな視点で考えてみると、例えば3,000万円のマンションを買ったとして、増税分の税金は90万円。増税で支払う金額というのは誤差の範囲なんです。だから、「増税前だから」という理由だけで焦って買うのはナンセンスですね。あくまでも買い時は、自分自身が決めるものです。

プロフィール : 長嶋 修(ながしま おさむ)

不動産デベロッパーで支店長として不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「不動産の達人 さくら事務所」を設立、現会長。ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を目指し、2008年に日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。また、自身の個人事務所(長嶋修事務所)でTV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。『住宅購入学入門 ―いま、何を買わないか』(講談社+α新書)、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)他、著書多数。

筆者プロフィール : 楢戸 ひかる(ならと ひかる)

1969年生まれ 大手商社勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。家事生活をブログ「家事マニア」にて毎週火曜日に更新中。