各分野の専門家の方にお勧めの書籍を紹介していただいている本企画。今回は、株式会社豆蔵の羽生田栄一さん(取締役CTO)に、モデリングに関する書籍を紹介していただきました。UMLの入門書からビジネスモデリングまで幅広く取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。

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プロフィール

羽生田栄一氏

2000年に株式会社豆蔵を立ち上げ、オブジェクト指向やモデリング、プロセス、パターンなどのソフトウエア工学の実践適用に関するコンサルティング、教育・メンタリングに従事し、後進を育成。アジャイルプロセス協議会フェロー、情報処理学会ソフトウエア工学研究会パターンワーキンググループ主査。著訳書は『オブジェクト指向に強くなる』、『UMLモデリングのエッセンス』、『Scalaスケーラブルプログラミング』ほか多数。趣味は、街歩き(路地、古書店、富士塚、坂、トマソン物件探索)。

『UMLモデリングのエッセンス 第3版』

『UMLモデリングのエッセンス 第3版』―― 著者:マーティン・ファウラー、発行:翔泳社

オブジェクト指向でソフトウェアを開発するとき、そのソフトウェアの目的や仕組みを表現することが必要です。その際、表現するための世界標準の記述法があります。それがUML(Unified Modeling Language)です。本書は、これからソフトウェア開発に携わる人ならぜひ読んだほうがよい一冊です。ソフトウェア開発の現場で多く使われるダイアグラムのうち、アジャイル開発でも役に立つ必要最小限のものだけを簡潔に紹介しています。UMLには多くのダイアグラムがありますが、実際に現場で使う使うものは限られます。文字通り、そのエッセンスを抽出して紹介しているのが本書です。


『UMLモデリング入門』


『UMLモデリング入門』――著者:児玉公信、発行:日経BP社

JavaやRubyなどのプログラミング言語を使い、オブジェクト指向の考え方をだいたい理解している人にお勧めします。本書を最低2回読むと、クラス図による概念モデリングができるようになります。UMLには静的な側面と動的な側面があります。前者はソフトウェアの構造をクラス図で表し、後者はソフトウェアの振る舞いを複数のオブジェクト図、シーケンス図やステートマシン図で表します。本書は前者、つまりクラス図によるソフトウェアの静的な構造のモデリングについて丁寧に教えてくれます。学術的な説明が多いので読みにくさがあるかもしれませんが、そのぶん内容は正確です。


『デザインパターンとともに学ぶオブジェクト指向のこころ』

『デザインパターンとともに学ぶオブジェクト指向のこころ』
 ――アラン・シャロウェイ、ジェームズ・R・トロット、発行:ピアソン・エデュケーション

設計や実装を見据え、オブジェクト指向でソフトウェアを作る際のモデリングの基本的な考え方が身に付きます。一つ一つのオブジェクトにどのような振る舞いを配分すれば全体として安定し、拡張しやすく保守しやすいソフトウェアの構造になるかがわかります。設計時に有効なノウハウとしてデザインパターンやアーキテクチャパターンがありますが、これらは言ってみればカタログ集なので、勉強しても身に付かないこともしばしばあります。本書を読むと、そもそもデザインパターンは何のためにあるのかというオブジェクト指向の「心」がわかります。サンプルとして掲載されているモデルは、簡単化されているとはいえ具体的なアプリケーションを意識した実践例なので非常に参考になります。また本書の発展版としてレベッカ・ワーフスブラック氏の『オブジェクトデザイン』という書籍があります。あわせて読むとよいでしょう。


『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』

『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』
 ――著者:エリック・エヴァンス、発行:翔泳社

本書は、本格的なオブジェクト指向業務モデルによるソフトウェア開発の解説書です。特に上流から下流まで、ドメインモデルを中核に据えてアジャイルプロセスを適用する際の指針やノウハウをパターンランゲージというかたちでカタログ化しています。顧客の業務領域、つまりドメインをもとにソフトウェアを設計・実装し、その結果を顧客にフィードバックした上でまた設計・実装をするという反復型のアプローチのやり方を示しています。開発者たちがどういう考え方で顧客の業務をソフトウェアに展開していくかについて、重要な指針を与えてくれます。先ほど挙げた3冊を読んでオブジェクト指向に関する基本的な素養を身に付けた人が繰り返し読むことをお勧めします。


『UMLによるビジネスモデリング』

『UMLによるビジネスモデリング』
 ――ハンス・エリク・エリクソン、マグヌス・ペンカー、発行:ソフトバンククリエイティブ

医療や教育、金融など、世の中にはたくさんの仕事があります。こうした業務のモデルをパターンとしてまとめる際のスタイルカタログ集が本書です。開発者が新しい分野のモデルを書く際に参考になります。先ほど取り上げた『ドメイン駆動開発』がビジネスモデリング中心の設計・開発の考え方を紹介しているのに対し、本書にはさまざまなスタイルのモデルの型が載っています。パターンという考え方をベースとして、顧客の業務を分析・設計する際のノウハウが身に付きます。