北関東のラッパーたちを悲哀たっぷりに描く『SR サイタマノラッパー』シリーズ最新作映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』に出演しているハリウッド俳優・北村昭博に話を聞いた。北村といえば、あのカルト映画『ムカデ人間』で世界的にブレイクを果たした人物だが、驚くべきことに今回の『SR』が邦画デビュー作となる。

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高校卒業後に単身渡米し、アメリカで俳優兼映画監督として活躍。日本でも人気となった海外ドラマ『HEROES/ヒーローズ(ファイナル・シーズン)』にも出演しているが、その名をとどろかせたのは、人間をムカデにするマッドサイエンティストの狂気を描いたオランダ・イギリス製作の『ムカデ人間』だ。北村自身、その映画の影響力は肌で感じている。しかしその一方で、インパクト大のビッグヒット作は北村にとって足枷にならないだろうか?

「あの映画のインパクトが強いから、僕が他の映画で普通のことをしたらダメだろうとの期待を感じる」と心境を吐露する北村。インターネットで自分自身の名前を検索すると「ムカデになった僕の画像ばかりが出てくる」そうで「レオナルド・ディカプリオが映画『タイタニック』のイメージから抜け出せずにもがくのと同じで、今の僕には必ず“ムカデ”がついてまわるんです」とジレンマを感じている。ただ、この状況を楽しんでいる北村もいて「自分にとって今は挑戦の時期。ライバルは『ムカデ人間』の北村で、自分を倒さないといけない」と決意を口にする。

今回北村が演じるのは、主人公・マイティ(奥野瑛太)が憧れる恋愛系右翼ヒップホップグループ"極悪鳥"のMC林道。真っ赤に染めた短髪ヘア、歯にはキンキラのアクセサリーと極悪を絵に描いたようなキャラクター。画面上では余裕の芝居といったところだが、現場での北村はどうやらそうではなかったらしい。撮影のために来日した北村を待ち受けていたのは、ヒップホップ特有の立て乗りを習得するために行なわれた2時間にも及ぶ訓練。入江悠監督から、北村だけヒップホップの動きと違うと怒られ、「最後は涙目になりながら、立ての動きを繰り返していた」という。

また冒頭で極悪鳥のライブシーンがあるのだが、入江監督の提案によって北村はマイクと共に、レンガブロックを持つことになった。自腹でブロックを購入した北村だが「撮影中はブロックの重さに腕が耐え切れず、しかも突き指をしてしまって、最終的に顔面にブロックを乗せる形で歌いました」と苦労をにじませる。さらに入江監督の提案によって、後半は杖を持つことに。さすがに自腹で買わなかったものの「横浜駅で杖をついているおじさんがいたので、歩き方をマスターするためにひたすら後を追いかけました」と独特過ぎる役作りも経験した。

ハリウッドからやって来た名優として、余裕で仕事をしてアメリカに帰るという妄想は撮影初日から破れてしまったが、クランクアップ時に入江監督からの「北村君、よかったよ」の一言で、周囲が引くほど号泣してしまったそうだ。「入江君に育てられたと思うほど、勉強をさせてもらった現場。仕事があれば国に関係なく役者として、傭兵のような活躍をしていきたい」と思いを新たにする北村は「メジャー映画の景色も見てみたいですね。『アウトレイジ ビヨンド』の出演依頼が来なかったのが悔しいので、これからも活躍中の俳優全員に負けないよう、熱い気持ちで頑張りたい」と力を込めた。ちなみに今回のインタビューは、北村が「少しでも『SR』の宣伝になれば」と自費来日して実現したものだという。映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』は、渋谷シネクイントほかで全国公開中。