米Intelと台湾TSMCがちょうど1年前に発表したAtom拡販におけるSoC (System on Chip)製造の戦略提携だが、1年が経過したいま、この提携の効果がほとんど現れていない可能性が指摘されている。米New York Timesが2月24日(現地時間)に報じている。

一般に、携帯電話や家電機器などの組み込み分野においては、顧客ニーズに合った形でカスタマイズされた専用のSoCを設計/製造するケースが多々見られる。IntelはこれまでPC向けにx86ベースの汎用プロセッサを提供する一方で、こうしたカスタマイズ要求型の案件を手がけることはなかった。同社がAtomプロセッサでモバイル機器や家電などの組み込み市場に参入したときでさえ、機能の異なる複数チップを組み合わせる「2チップソリューション」「3チップソリューション」といった形態がとられてきた。

ところがこの分野でライバルとなるARMは、多くの半導体メーカーにIP(知的所有権)がライセンスされており、その派生バージョンと呼ぶべき多くのチップが開発/製造されている。最近でいえば、NVIDIAのTegraやQualcommのSnapdragonがいい例だ。また正式に発表はしていないものの、あのAppleでさえARMベースの自社開発プロセッサ「A4」で、こうしたライセンスメーカーの1社として自身が利用するのに最適化されたチップの開発/製造に取り組んでいる。一説によれば、AppleはA4開発だけで10億ドル規模の投資を行ったとも言われており、カスタマイズにはそれだけの需要と価値があることを証明している。IntelがTSMCと提携してAtomのライセンス供与を行ったのも、こうしたカスタマイズに対する顧客需要を満たし、ARMと正面から対決するための準備だったといえるだろう。

だがNYTによれば、この提携はうまくいっておらず、Intel自身が短期的視点で顧客需要がなかったことを認めているという。実際、この提携で製造されるべきチップのリリース計画が近い将来まで存在しないようだ。米IntelでAtom事業担当を担当するRobert Crooke氏はNYTのインタビューに対して「われわれはこれまで(TSMCとの)提携で多くの重要なことを学んできたと考えている。だがわれわれはまだ諦めておらず、すぐには効果が現れないものと考えている」と語っている。

ネットブック需要の増もあり、リリースから1年経たずして目覚ましい成果を挙げたAtomプロセッサだが、依然として"安価なx86"という認識の域を出ておらず、次なるステップにはまだまだハードルが高いという印象を受ける。