サムスンの「SyncMaster F2380MX(以降、F2380MX)」は、いわゆるPC向けの液晶ディスプレイにカテゴライズされる製品だが、PC以外にもさまざまなデジタル機器を接続して楽しめるような、マルチメディアディスプレイ的なポテンシャルも併せ持つ。本稿では、このF2380MXをPCディスプレイ、マルチディスプレイ、両局面の視点から評価してみることにした。

PCディスプレイとしてのF2380MX

F2380MXは、サムスンのフルHD解像度のPVA液晶パネルを採用しているディスプレイだ。画面サイズは23インチで、表示サイズとしては横約51cm×縦約29cmという大きさになる。視聴距離が40~50cmになるデスクトップ・パーソナルユースにおいては小さすぎず、大きすぎず、それでいて適度なワイド感も得られるベストサイズだろう。

液晶パネルは1920×1080ドット、いわゆるフルHD解像度のVA型液晶で、安価なTN型液晶パネルを採用した製品よりも1クラス上の表示品質を提供してくれる。

SyncMaster F2380MX

サムスンの改良型VA型液晶はPVA液晶として知られているが、これについての解説は、筆者の執筆した液晶パネルの解説記事を参考にしてほしい。ここでも、簡単に触れておくと、PVA液晶は原理的にコントラスト性能に優れる特徴があり、液晶テレビの映像パネルにもよく用いられるほど、その画質性能には定評がある。F2380MXに採用されているPVA液晶パネルは、ネイティブコントラスト比が3000:1もあり、まさに液晶テレビ並。さらに、F2380MXでは表示映像の平均輝度に合わせてバックライトの光量を調整する「動的バックライト制御機能」もあるので、実効コントラスト性能は驚きの15万:1を公称値としている。これは、普通のPC向け液晶ディスプレイのコントラスト値を超えたスペック値だ。

視野角は上下左右178°の範囲を確保しており、画面の中央と外周とで色味が違うということもない。色再現性についても、sRGBカバー率100%となっているので、デジカメで撮影した写真の閲覧やレタッチ、そのほかのデザインワークスにも耐えうる品質が保証されている。

これだけの基本性能の高さを持ちながら、実勢価格は3万円を切っているというのだから、コストパフォーマンスの高さはかなりのものだ。

PC系接続端子+HDMI、そしてサウンド機能も搭載

接続端子は、PCディスプレイとしての基本条件ともいえるアナログRGB接続対応のDsub15ピン(VGA)端子、デジタルRGB接続対応のDVI-D端子の両方を備える。DVI-D端子は著作権保護機構のHDCP対応なので、DVI端子を持つ一部のAV機器への接続にも対応できるほか、市販のDVI-HDMI変換アダプタを利用することでHDMI端子を備えたAV機器との接続にも対応できる。もっとも、F2380MXは、れっきとしたHDMI端子も備えているため、通常のAV機器との接続はHDMI端子のほうを利用すればいい。

そして、総出力6Wのステレオスピーカー(3W+3W)が搭載される点もF2380MXの特徴として特記せねばなるまい。あれば便利なのはわかっているのに、搭載機はまだまだ少数派といえるスピーカー機能だが、驚いたことに、この音声再生はアナログ、デジタルの両対応なのだ。

インタフェースにはDsub15ピン(VGA)端子、デジタルRGB接続対応のDVI-D端子にHDMI端子も装備されている

背面にはミニステレオジャックのアナログ音声入力端子が備わっており、ここをPC側のアナログ音声出力端子と接続するだけで、VGA端子、あるいはDVI-D端子の映像を表示しているときに、その音声を再生することができるのだ。HDMI端子は映像だけでなく、同時に音声も伝送されるデジタル端子だが、F2380MXと接続した機器がHDMI経由で音声を伝送してきた場合には、これもちゃんと再生することができる。ゲームをプレイしたり、動画サイトを楽しんだりする程度ならば、ご自慢のHiFiのサウンドシステムの電源を入れる必要もなく、F2380MXだけの自己完結環境でカジュアルに楽しめるのは楽だし便利だ。

なお、音質は、意外や意外、このクラスの小径スピーカーにしては悪くない。また音量も常識的な範囲であれば、大きく鳴らすこともできるし、スピーカーが左右の端に設置されているため、ステレオ感も強い。周囲に対して音量を気遣いしなければならない場合には、側面のヘッドフォン端子を利用することもできる。PCディスプレイながら、F2380MXは「使える」サウンド機能を備えているのが特長だ。

ステレオ感も強く、音質も悪くないスピーカーを搭載 周囲に対して音量を気遣いしなければならない場合には、側面のヘッドフォン端子を利用できる

ワンタッチで縦画面モニターに変身

そして、さらに、特記しなければならないのが、この価格クラスのPCディスプレイとしては非常に珍しい、画面のピボット(旋回)機構に対応している点。そう、画面全体を回転させて、ワンタッチで縦画面表示に切り替えられるのだ。

Windows 7ならば、縦画面デスクトップへの変更は、デスクトップから右クリックで一発で呼び出せる「画面の解像度」メニューで、「向き」を「縦」にするだけでいいので簡単だ。マイコミジャーナルもそうだが、最近はWebサイトは縦長のものが多いし、Excelのようなスプレッドシートはもちろん、連絡先ごとにフォルダ仕分けをした、使い込んでいるメールソフトも縦長になりがちと、縦長デスクトップが便利な局面は多い。普段は一般的な横画面状態で使い、特定の作業時にだけ縦画面にして使う、という両刀遣い的に活用できるのは、他機種にはないF2380MXだけの魅力だといる。

ワンタッチで画面全体を回転させ、縦画面表示に切り替えられる
あれば非常に便利な縦画面機能。F2380MXユーザーは積極的に使っていきたい

実際にPCディスプレイとして使ってみると?

DVI-D端子でのPCとの接続は、コネクタ同士をつなげるだけでセッティングが完了するので、至ってシンプル。接続後やるべきことは少ないが、15万:1の最大のコントラスト性能を得たいならば「MagicBright」機能の設定を「ダイナミックコントラスト」モードに変更する必要がある(標準状態ではMagicBirght機能の設定は「ユーザー調整」モードになっている)。

15万:1の最大のコントラスト性能を得たいならば「MagicBright」機能の設定を「ダイナミックコントラスト」モードに変更する

VGA端子接続によるアナログRGB接続も試してみたが、ちゃんとアナログでも1920×1080ドットのドットバイドット表示ができた。この解像度になるとアナログRGB接続はボケ気味になる安価なPCディスプレイ製品も多い中、F2380MXはかなりのクリスピー画質を実現していた。

入力は、前面側の[SOURCE]ボタンで順送り式に切り替えが可能。デフォルトでは未接続端子をスキップする設定になっているので、総計3入力のF2380MXならばスピーディな切り替えが可能だ。PC連動電源でF2380MXへの電源供給を行う場合には、このスキップ機能によってPC側の画面出力が行われる前に入力切り替えが起きてしまう可能性がある。これに対処するには「セットアップとリセット」メニューの「自動ソース検出」設定を「手動」に切り替えるといい。これで未接続入力端子のスキップ機能がキャンセルされる。

「セットアップとリセット」メニューの「自動ソース検出」設定を「手動」に切り替えると、未接続入力端子のスキップ機能がキャンセルされる