10年の経験で培ったさじ加減が満足を届ける

サイコムのBTOパソコンというと、丁寧な内部配線の取り回しも注目すべき特徴のひとつ。配線というと地味ではあるが、とくにパラレルATAの全盛期では、そのケーブルの幅の太さから雑な配線ではエアフローを妨げるとして、性能面からも重要視されてきた。話を伺っていくと、配線とひと言で言っても「さじ加減」が難しいものであるとわかる。

まず河野氏は、同社の製品を選ぶユーザーの傾向として「中見に興味があるお客さんが多い」と分析している。つまり、BTOパソコンを買った後、ケースを開き、内部をさらにいじる自作PC的使い方をするユーザーの割りあいが多いというわけだ。そのため、例えばガチガチにやり過ぎるとユーザーが購入後にいじる際「作業がしづらい」というクレームにつながり、逆に手を抜くと「たいしたことない」と受け取られてしまうのだという。それでも注文時に「丁寧な配線を」という希望は後を絶たないのだとか。

10年間試行錯誤を繰り返した結果の答えは、「ある程度はいじることを前提としてやりすぎない」ことであると河野氏は語る。「明確に線を引くことは難しが、そういうことを考慮した上でエアフローを考えた配線にしよう」というのが現在の社内ルール。こういった配線などは届いてから初めてわかるところなので、同社としても非常に注意しているポイントなのだそうだ。こうした難しいさじ加減が必要なサービスでユーザーの満足を得るということは、経験の浅いメーカーでは難しいところ。ユーザーからの10年間のフィードバックから蓄積された同社の強みと言えるだろう。

動画
手際よくケーブリングしていくスタッフ。やりすぎず、手を抜かず、難しいさじ加減の配線でケース内のエアフローを妨げず、そして美しく仕上げていく
(WMV形式 6分46秒 13.7MB)

もうひとつ、BTOパーツの追加の方針も伺った。BTOメーカーにおいて、パーツの選択肢を豊富に用意することはユーザーのニーズを満たすためには重要な要素だ。「まだまだ少ないと言われます」と正直に述べた河野氏だが、考えているのはリスクの問題。もちろんサイコムとしてのリスクもあるが、ユーザーのリスクもある。例えば「巨大なCPUクーラーを積めば静音化は容易」と河野氏は言うが、例えばあまりにも巨大クーラーでは輸送中の脱落や、経年でのたわみの発生などのトラブルが考えられる。こうしたリスクに気配りできるところも、10年という試行錯誤の重みだろう。ちなみにクーラーでは「目安として700gを超えるものはNG」「頭でっかちのものもNG」といった判断をしているとのことだ。CPUクーラーではサイズ以外にも、「中見に興味があるユーザー」に考慮し、メモリ増設のために一度取り外さなくてはいけないような形状のもの、メンテナンス中に指を切ってしまうような安全性で不安のあるものに関しても、それが人気の製品であっても同社では取り扱わないようにしているのだそうだ。

そして、製品を提供する以上、壊れないこと、長く使えることはとても重要だと言う。「売れているパーツや、ネットでの評判がいいパーツが、実際には必ずしも良いパーツとは限らない」と言うとおり、社内での検証に力を置き、そして採用した製品に対しても継続してデータをとり、常に同社自身の手で確認しているとのことだ。パーツの組合せは膨大であり、製品のサイクルは短く、検証には時間がかかるとのことだが、「うちの用意した選択肢のなかでは安心して買ってもらえますよ、というところをアピールしていきたい」と河野氏は語る。つまり、サイコムのBTOパーツのラインナップは、安全に届く、ちゃんと動く、長く動く、そしてそれらができるだけ「確実」であることに注力していているというわけだ。

最後に、直販メーカーでは特に重要な、「納期」についてのこだわりも伺った。サイコムのBTOパソコンの特徴として、よくある最新CPUの発表と同時、というよりも、少し遅れてそれを搭載した新製品を発売するというパターンが多い。とくに発表当時極度の品薄だった「Core 2 Quad」の搭載モデルなどでこうしたイメージがあるだろう。他社が次々と新製品を発表するなか、「サイコムは新製品の投入が遅い」と捉えかねられない。しかしこれにはちゃんとした理由があるとのこと。「おそらく実際の出荷に関しては同等かむしろ早いこともあります」と言う。河野氏によれば、最新パーツなどは潤沢なストックを得られて初めて新製品として発表するのがサイコム。つまりモノが無い時点で受注を受けることは無い。あくまで受注時の納期を守るというポリシーだ。もちろん、いち早く製品を提供するための努力も怠らない。エンジニアリングサンプルと呼ばれる製品前のプロダクトを入手し、検証する。また、既に数回訪問している弊誌メンバーは、組み立て工場に入るなり「レイアウトが変わりましたね」と指摘していたが、これは、組み立て工程などの効率化も日々追求されているということだ。