連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


地震に対処する3つの方法 ~電車のつり革の役割は免震? 制震? 耐震?~

免震・制震・耐震構造の違いを説明する時は、いつも電車の車内の状況を使って説明しています。電車に乗っていて急発進や急停車した時に、つり革につかまっていた状態はどうなっているのでしょうか。体は大きく揺れますが、つり革につかまっている腕の力でそれ以上は倒れません。腕をグィッと引いて体を元に戻すでしょう。もしつり革が強力なバネでできていたら、体はバネの力で元の状態に揺れ戻されます。この腕が引き戻す力やバネの動きの仕組みが「制震」構造と言われるものです。

一方、今回のテーマの「耐震」構造は自らの耐力を向上させて揺れに対応するもので、電車の車内であれば、座席や手摺に体を固定して、電車の揺れに備える場面をイメージしてみてください。ただ単に立っているより、遥かに電車の揺れに対して安全です。「免震」構造を説明するのは少し難しいですが、ローラースケート靴を履いた状態で電車に乗っていることをイメージしてみてください。揺れに対して体は滑っていきますが、ローラースケート靴と体が一体であれば 倒れることはありません。しかし車内をどこまでも滑っていってしまっては問題ですので、元の位置に戻す制震構造と組み合わせるのがベストです。

住宅の地震に対応するリフォームは「耐震」が中心ですが、制震金具を取り付ける方法や、まれではありますが免震的な対処方法もあります。しかし地震に強くするためには、ただ単に金具で固定すればよいというものではなく、バランスが重要です。また組み合わせ方によっては逆効果になりうる場合もあり、どの方法を採用するかは個々のケースで判断する必要があります。

地震に対処する4つのポイント ~砂上の楼閣とならないためには~

建物は地面に支えられています。地面が軟弱であれば、地上の建物がどれほど強くても意味がありません。地震の揺れで起きる液状化現象により、建物が傾いた事例は東日本大震災でも多く報告されています。また地盤だけでなく、地震が原因の火災や津波、堤防の決壊などによる洪水なども視野に入れておく必要があります。東日本大震災では、地震そのものでは無傷の建物が津波で流されている映像を目の辺りにしました。阪神淡路大震災でも多くの建物が二次災害の火災で延焼しました。

ポイント1:派生する二次災害への対処

今回のテーマではありませんが、実際は直接的な建物の倒壊より、より多くの人命が失われるのが二次災害です。この点も頭に入れて地震対策を考えてください。ただし、移転したり耐火構造にしたりと、簡単に解決できるものではないケースがほとんどでしょう。何度も繰り返しますが、リスクはゼロにはできません。どれだけ少なくできるかだけです。考えすぎて対処が遅くなるよりは、当面建物だけの範囲の耐震化に特化することもリスクを少なくする上では大切です。

ポイント2:地盤は地震の際に建物を支えられるか

地震がなくても、埋立地は地盤の沈下が置きやすい場所です。特に元の地形が斜面である場合は、斜面の低い部分の沈下の度合いが大きく、不同沈下を起こし、建物が傾く要因です。新築時に地盤の状況に見合った対策(杭・地盤改良・基礎の巾の拡大)を行っていない場合は、基礎や地業(※)の補強が重要課題です。

(※ 地業とは、基礎を支える地盤面以下の部分のことを指します。地業工事とは基礎底の下に設置する割栗石、杭、地盤改良等の工事で、基礎を支える地盤面を強化したり、基礎をしっかり支えたりする役割を持ちます)

ポイント3:建物を堅固にするには

前回紹介した『誰でもできるわが家の耐震診断』(国土交通省監修)の後半に、木造住宅の主な補強方法が解説されています。下記に基本的な考え方をまとめておきます。

ポイント4:家具や屋外の塀等の転倒防止対策

阪神淡路大震災では建物だけでなく、家具の下敷きで多くの方が亡くなりました。家具や屋外工作物の対処方法は後日「耐震リフォーム(4)」で詳しくまとめてみる予定です。

地盤の強化 ~後からの工事では限られる耐震補強方法~

地盤を強化する地業工事は本来建物が建つ前に行うものであり、様々な方法がありますが、建物が建っている状態での地盤の強化はかなり難しくなります。住宅に使用される地盤補強方法は次のようなものがあります。目的が耐震補強なのか、液状化対策なかで、適した工法が異なります。また軟弱地盤の深さ、地下水位や周囲の地形なども考慮に入れる必要があり、かなり難しい判断を必要とします。

  • 杭…固い地盤面まで杭を到達させて、その上に基礎を載せる方法です。価格は高めですが、確実な方法です。建物が建った後ではほぼ不可能です。

  • 地盤改良(1)…表層の軟弱地盤を強化する方法と、基礎の下をいくつも円筒状に掘削してセメントミルクなどを混ぜて、柱状に固める柱状改良があります。いずれも建物がある場合は難しくなります。

  • 地盤改良(2)…土に石灰や膨張性樹脂などを注入し、土の中で膨らませて建物の下の土の密度を高める方法です。建物が存在しても比較的容易に工事ができるのが特徴です。各社独自の方法があり、実績等を充分にチェックして判断ください。

  • 擁壁等の強化…道路や隣地と高低差がある場合は、土止めの擁壁があります。擁壁には鉄筋コンクリート造や加工された石材=間知石積みのものなどがあります。しかし違法なコンクリートブロック積みのものも少なくありません。擁壁の構造は建築基準法で定められていて、例えば鉄筋コンクリート造の場合、一定間隔で水抜き穴等が必要です。この水抜き穴のない違法のものも多く見られます。またコンクリート面が膨らんでいたら、中の鉄筋が錆びている可能性があり、擁壁としての性能が低下している可能性があります。

建物を強化する ~使い方を間違うと逆効果の耐震補強~

阪神淡路大震災では多くの建物が倒壊しましたが、中には本来地震に強くするための筋交いが梁を押し上げて梁が柱から外れて破壊されたケースも見られました。筋交いの取り付け方、金物の取り付け方などで、逆効果の場合もあるのです。

  • 構造材の固定…基本は基礎・土台・柱・梁・屋根のそれぞれの連結部分を金具等で固定強化していきます。基礎と土台はアンカーボルトで固定されていますが、柱が土台から抜けてしまって倒壊につながった事例が多くありました。そのために最近は土台と柱を固定する金具を取り付けたり、直接基礎と柱を連結するホールダウン金物で柱を固定したりします。本来新築時に取り付けるものですが、耐震補強用の後付タイプもあります。

  • 壁の補強…耐力壁とは、通常の壁とは違って、所定の太さの筋交いが入っていたり、構造用合板で固められていたりする壁のことです。壁をそのような構造に補強するほか、壁そのものがなければ、壁を追加して補強します。どうしても外部への視界を維持したい場合は、強化ガラスなどで耐力壁を作った例も報告されています。

  • 屋根の軽量化…屋根が瓦葺きの場合は、屋根材を軽い素材のものに葺き替えると耐震性が向上します。公共の建物などは上層階を解体減築して耐震性を高めた事例もあります。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。