ヘレンとナディア。この二人は、私の世界観、人生観に大きな影響を与えた恩人です。ヘレンは、私のロンドンでの英語のプライベートレッスンの先生。ナディアは、ニューヨークの借家の大家さんです。

ロンドンでの英語の先生、ヘレン

ヘレンとの出会いは、ロンドンで初めて海外勤務になった直後、たどたどしい英語を使っていたところ、スーパーのレジの女の子に、"I don't understand you."(あんたが言ってること、わからないわ。)と言われた屈辱感から、一念発起して、英語のプライベートレッスンを受けようと決心して、出会った先生でした。

何度かレッスンを受けるうちに、お互いのバックグラウンドを話すようになってわかったことは、彼女はイギリス人ではないことでした。もちろん、彼女は、普通のイギリス人以上にきれいな英語を話しますが、彼女は、ユダヤ系のオーストラリア人でした。さらに、聞いていくと、彼女のご両親は、あの悪名高きアウシュビッツ強制収容所の生存者で、第2次世界大戦後、オーストラリアに移住して、そこで彼女が生まれたということでした。

ご両親は、ゼロからオーストラリアで事業を始め、一財を成した後、二人ともほとんど間をおかずに亡くなったそうです。彼女は、実にざっくばらんで気丈な人ですが、この話になると、涙が止まりませんでした。

彼女のマザーラングエッジ(もともと、生まれたときの初めての言語)は、イーディッシュという、中部ヨーロッパのユダヤ人が使っている言語で、原始ドイツ語に近い言語だそうです。たまたま私が聴いた限りでは、全くドイツ語にしか聞こえませんでしたが、文字は、右から左に書くヘブライ文字でした。

彼女は、オーストラリアの大学を出たあと、インドでの長期滞在を経て、イギリスに渡り、今の旦那さんである、ウェールズ人の仏教画家と出会ったそうです。彼女は、その後、オックスフォード大学で、イーディッシュを教えていました。

ニューヨークの借家の大家さん、ナディア

ナディアは、私がニューヨーク勤務の時に借りたコネチカット州グリニッジの家の大家さんです。

この人がまた、すごい人生で、彼女は、ウクライナ人(彼女に言わせると、隣のロシアとは、全く違うと、強く主張していましたが、最近の両国の紛争からもそのことは感じます)で、娘時代のある日、ドイツ兵が現れて、家族一同、収容され、何日も貨車に揺られて、護送されたところが、オーストリアの強制収容所。そこで何年かを過ごしたそうです。

そして、ある日、その収容所のどの監視所にも、ドイツ兵がいなくなっていることに気づき(つまり、戦争の終結)、これ幸いと、皆で山を越え山を越え逃げたそうです。そして、やっと駅を見つけたそうです。しかし、その駅のそばに止まっていた戦車に赤旗が立っていることに気づき、回れ右して、また山を越え山を越え、ようやく米軍のキャンプに収容されました。そして、そこでしばらく休養後、米軍から身の振り方を相談され、家族一同、南米のチリに移住することにしたそうです。

彼女は、チリで大学まで出たあと、ニューヨークに渡り、そこで、ロシア系スウェーデン人の旦那さんと知り合い、スウェーデンの首都、ストックホルムに移住。あの川端康成のノーベル賞受賞を会場でじかに見たことを自慢していました。

マーケットで大切なタフさとスケールの大きな発想力

この二人の地球レベルの生き方を見ていると、自分の人生なんて、小回りだなあと実に思います。世界中が参加している外国為替のマーケットの世界でも、相手にしているのは、こういった数奇な人生を送ってきているタフな連中も含まれていると思って間違いありません。

そうした人々も入り混じって構成されるマーケット心理を読むには、既成概念にとらわれず、スケール大きく考えることが大切です。

古くは、貿易不均衡是正を狙った1985年のプラザ合意により10年間で160円もの大円高となった相場や、世界を震撼とさせた2008年のリーマンショックにともなう大クロス円急落相場など、振り返れば数えきれないほどの大相場がありました。

大相場は、想定以上のことが起きるからこそ、マーケットがパニックに陥り、大相場になります。そして、これからも、今の時点では想像もつかないような大相場が出現することになると思います。

そうした大相場で、一獲千金を狙って、人々が世界中からマーケットに集まってくるものと思います。彼らと伍して儲けていくには、彼らに負けないタフさとスケール大きな発想力を持つことが必要です。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら

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