【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

最近、芸能界では年の差婚が話題である。昨年68歳にして、なんと45歳差となる23歳の女性と再婚した加藤茶を筆頭に、その加藤の盟友でもあるザ・ドリフターズの仲本工事も、今年70歳にして20歳以上も年下の演歌歌手・三代純歌と、来る7月に再々婚することを発表。また、反原発活動家としても知られる俳優の山本太郎も、37歳にして18歳年下となる若干19歳の一般女性と結婚したことを、先日発表したばかりだ。

芸能界でこういうことが起こると、当然大きなニュースになるわけで、したがって近ごろの独身男性たちはそれに影響を受けたのか、全体的に年の差婚を希望する傾向にあるという。できることなら若くて美しい妻をもらいたいと願うのは、男性の本能なのだろう。

かくいう僕の場合も、妻のチーは7歳年下である。この7歳差というのは僕ら夫婦が2人とも40歳以上になればあまりギャップを感じなくなるのかもしれないが、現在の僕らの年齢(僕が36歳、チーが29歳)では話が変わってくる。子供のころや青春時代に触れてきたカルチャーが違うことによって生まれる価値観や理念のジェネレーションギャップはもちろん、それ以上に大きな差は体力の問題だ。中でも自分の肉体に対する「そもそもの感覚の差」は、同じ7歳差でもこの世代間がもっとも大きいのではないか。

たとえば47歳と40歳という7歳差の夫婦の場合、2人とも自分がもう若くないことをとっくに自覚している(であろう)年齢同士のため、日常生活の中でちょっとした体調不良や疲労蓄積があったとき、その対応に関しては年の差など関係なくなってしまう。「もう若くないのだから」という共通認識のもと、2人とも病院に駆け込んだり、栄養剤や薬を飲んだり、いつもより早く就寝したり、とにかくなんらかの積極策を考えるはずだ。

こういった「自分はもう若くない」という共通認識は、たとえ55歳と48歳の7歳差でも、43歳と36歳の7歳差でも、その他ある一定の世代以上の7歳差の場合はすべて当てはまるだろう。87歳と80歳の7歳差に至っては、ほぼ同年齢の感覚だと思う。

しかし、僕とチーのように36歳と29歳の場合、同じ7歳差でも自分の体に対する認識が大きく違う。僕は20代のころに比べて体力が落ちている自覚があり、たとえば風邪をひいたときは、昔のように「たっぷり寝れば勝手に治る」という感覚ではなく、栄養剤や薬を飲んだうえでたっぷり寝ないと治るものも治らないと考えている。他方、チーは「まだまだ自分は若い」という感覚が抜けきっていないためか、風邪や肉体疲労時の対応がなんとなく自然治癒任せ、すなわち「寝れば治る」といった大雑把な感覚だ。要するに、チーは自分の若さや体力について過大評価している向きがあるわけだ。

もしかすると20代後半~30代前半あたりは、すべての人間にとって肉体に対する感覚が大きく変わる過渡期なのかもしれない。それまでは学生時代と同じような感覚で、毎晩のように暴飲暴食を続けても一晩寝れば体力が回復したものだが、それがだんだん難しくなってくるのもこの時期だ。肉体疲労やその他の体調不良時もしかりである。学生時代のイメージを引きずったまま対処するだけでは、なかなか回復しなくなってくる。

僕も30歳を超えたあたりから、自分の体への対応を大きく変えた。少し疲れが溜まってきたら栄養剤やビタミン剤を飲むようにしたり、睡眠に気を遣ったり、食事のバランスも考えたりするようになった。かつては仕事が忙しいからといって連日徹夜をしたり、食事を抜いたり、椅子の上で仮眠をとったりすることも珍しくなかったが、今はよほどのことがない限り、そういうことはしないようにしている。どれだけ忙しくても合間に必ず多少の睡眠はとる、その睡眠がたとえ短時間であっても、ちゃんとベッドか布団で寝る。そうするだけで、その後の回復力に雲泥の差が出るのは論を俟たないだろう。

ところが、最近になってチーの中にもある種の戸惑いが生まれてきたようだ。自分の中では今までと同じ感覚で生活しているのに、なぜか体を壊すことが多くなり、蓄積疲労も抜けにくくなってきたという。

また、睡眠についてもそうだ。これまでのチーは「趣味はソファーでの仮眠」といっても過言ではないほど、ちょっと時間ができたらソファーの上で体を無理に丸めて仮眠をとることが多かった。僕は同じ仮眠をとるならソファーよりもベッドで寝たほうがいいと思うのだが、それでもチーは頑なにソファー仮眠を譲らない。なんでもチー曰く、それこそが自分流の体力回復術であり、わざわざベッドを使うほどのことではないらしい。

しかし先日、そんなチーのソファー仮眠にもついに不具合が生じた。いつものように体を丸めてソファーで仮眠をとると、起きるなり体の節々に鈍い痛みを訴えたのだ。

チーは原因不明の筋肉痛だと首をひねっていたが、僕として当然の結果だと思う。あんな奇妙かつ無理な体勢で寝れば、誰だって体の節々に負担がかかるだろう。若いころならともかく、チーはもう来年30歳なのだ。そろそろソファー仮眠は考え直すべきだ。

現在、チーは少しずつ少しずつ、自分の体への感覚を改めている最中だ。いつかそれが僕と同じ感覚になったとき、僕らの年の差ギャップは綺麗に埋まるのだろう。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
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