4月から5月末までに46店を閉鎖、攻めの経営が転換点

ヤマダ電機は、4月から5月末までに46店を閉鎖すると発表した。これまで一貫して攻めの経営を続けてきたが、ついに転換点を迎えた可能性がある。

ヤマダ電機の強みは、圧倒的な規模にあった。家電製品はどこで買っても同じメーカー品が中心なので、自然、値段の叩きあいになる。ヤマダ電機は、量販店でトップの売上規模を保ち、その強みで安く仕入れて、安く売る競争に勝ってきた。積極的に出店と同業他社の買収を行い、都心にも郊外にも店舗網を拡大した。

ところが、郊外にも積極出店したことが裏目に出た。2014年度は、都心店と郊外店ではっきり明暗が分かれた。都心店舗は、インバウンド(訪日外国人の買い物)需要を取り込んで好調だ。特に中国人観光客の"爆買い"がある銀座店は、絶好調だ。ところが、インバウンド需要の入らない郊外店は、軒並み不振となった。

家電量販各社の2014年度の業績は、都心店舗が多いか少ないかで明暗が分かれた。都心店舗が多いヨドバシカメラやビックカメラは比較的好調だが、都心だけでなく郊外にも多くの店舗を持つヤマダ電機は、郊外店の売上げが苦戦した。

今回、ヤマダ電機が閉店するのは、郊外の不採算店が中心となる。同社は「追加のスクラップ&ビルドや店舗閉鎖、業態転換については、新規出店等を踏まえ、現在、精査中」としている。今後、郊外店を中心に、さらに閉店が拡大する可能性もある。

ヤマダ電機の業績の足を引っ張っている住宅事業

ヤマダ電機の業績の足を引っ張っているものが、もう1つある。不退転の覚悟で参入した住宅事業だ。同社は、2011年10月に住宅大手エスバイエルを、株式公開買付と増資引き受けによって子会社とした。2013年6月には、社名をヤマダ・エスバイエルホームに変更している。住宅と家電を融合させた「スマートハウス」を開発し、新規事業として成長させる方針だ。

ところが、住宅事業は赤字で苦戦している。そもそも家電量販店による住宅事業参入には、当初からアナリストの間で無謀との声が多かった。

住宅の販売員には高度な専門知識が必要で、家電量販店でその人員を育成するのは容易でなかった。住宅事業の経営そのものにも、下請け業者の管理や部材の調達などで家電量販店とはまったく異なるノウハウが必要である。

少子化が進み住宅業界の競争が激化するタイミングでの参入にも疑問符がついた。2014年4月の消費増税前に駆け込み受注が一瞬盛り上がったが、諸費増税後は、再び受注環境が悪化している。

新商品の開発競争も厳しい。スマートハウスや介護住宅の開発では、積水ハウスや旭化成など住宅大手各社がしのぎを削っている。家電製品との融合ならば、パナホームが早くから手がけてきた。

旧エスバイエルは、ツーバイフォー工法で安価な規格品を作るのに強みがあったが、多様な商品開発が求められる時代に入って、競争力が低下しつつあったタイミングで、ヤマダ電機の傘下に入った。

ヤマダ電機は、今年3月にソフトバンクと資本業務提携を結んだ。ソフトバンクの通信事業まで活用して、スマートハウスを成功させる覚悟である。それでも、住宅事業建て直しは容易でない。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。