2010年も今日で終わりである。私はいま、今年最後の日にこのコラムにおいでくださった、読者の皆様に感謝している。どうか来年も、こちらのコラム、「ぐうたら主婦でごめんあそばせ」においでいただければ嬉しい限りである。ところで2010年、エレクトロニクスの分野で最も話題となったものは何か。おそらく、多くの方はスマートフォンをあげるのではないだろうか。美容家電では、持ち運びに便利なスリムな電動歯ブラシ「ポケットドルツ」(パナソニック)が女性に人気だった。

ヒット商品がなかなか出ないと言われている調理家電。今年のヒット商品といえば、米粒からパンがつくれるライスブレッドクッカー「GOPAN(ゴパン)」ではないだろうか。ゴパンは家庭にあるコメや水、その他材料をざくっと入れて、あとは炊飯器のようにボタン一つでパンを焼いてしまう機械なんである。"米粒そのまま"を使用できるホームベーカリーは、このゴパンが世界で初めてとなる。

11月11日、遂に発売されたライスブレッドクッカー「GOPAN(ゴパン)」。予約殺到のため、残念ながら販売再開は来年の4月予定

なんだかんだ言ったって、日本人はコメが好き。それを示すかのように、7月13日、ゴパンの記者発表後、予想以上の注文が販売店からあり、発売延期を決定。約1ヶ月遅れとなる11月11日に販売開始にこぎつけるも、当初の販売目標(2011年3月末まで)として掲げていた5万8,000台を発売後1ヶ月に満たない時点で既にクリア。生産が追い付かない状態になっていることを受け、12月1日から予約受付を見合わせ、販売再開は2011年4月頃予定という異例の措置をとるほどまでになっている。なかなかヒット商品が出ない今日、メーカーに勤めている人からみれば、うらやましい話である。

ヒットの要因はターゲットの広さ

三洋電機コンシューマエレクトロニクス 家電事業部 企画統括部 岡本正範氏。「もともとホームベーカリーの市場は45万台程度。ゴパンは一般的なホームベーカリーの2倍以上の価格帯ながら、半期の販売目標5万8,000台としました。もちろんプレッシャーは大きかったです」

「日本人にとって、ゴパンは機能やメリットがわかりやすい商品です。家電製品の場合、他社にない商品をつくろうと思うと、ターゲットが狭く、特殊な商品になりがちです。ところが、ゴパンのターゲットはとても広い。そこが多くの方に受け入られた理由の一つになっていると思います」

このように語るのは三洋電機コンシューマエレクトロニクス 家電事業部 企画統括部 岡本正範氏だ。

ヒット商品を出すコツは、いままで、この商品を利用しなかったような層までが使える商品にすることだと言った人がいる。たとえば、任天堂のゲーム機「DS」のヒットは、これまで、ゲームボーイの利用者が小学生中心だったのに対して、大人も利用できるようにしたことで、より多くの販売台数を達成できたと言われている。

まさに、ゴパンもそうだ。これまでホームベーカリーに興味がなかった人までをひきつけている。まず日本人なら、コメに興味を抱かない人はいない。さらに、社会的背景として、いま日本はコメの消費拡大、食料自給率向上という国家的な課題を抱えている。問題解決の糸口としてもゴパンは可能性を秘めている家電なんである。農家の方や政府、地方自治体など、パンなど、つくったことがなかったような人たちにとっても、ゴパンは目が離せない存在なのだ。

焼きたてパンの美味しさはコメパンも同じ

多くの人から、注目されているゴパンだが、問題は味である。家にあるコメからパンをつくるベーカリー。はたしてどんな味なのか。今回は、実機で確認したかったが、お客様にお届けする在庫すらない状態。レンタルは不可能ということで、三洋電機にお邪魔して、開発者とマーケッターにお話をおうかがいしながら、試食させていただいた。

ゴパンで焼き上げた"コメパン"。左はトーストしたもの。一見すると、いつも食べているパンと変わりない

結論は「参りました」。はっきりいって美味しい。もともと、焼きたてパンは美味しいと相場が決まっている。コメパンも例外ではなく、焼きたてパンの美味しさを味わうことができた。くわえ、やや甘みが強いのが特徴である(材料に砂糖を使用していることも影響)。また、小麦粉のパンよりモチっとしているが、くどいほどモチモチした感じはない。むしろ、何も言われなければコメパンだと気づかない人もいるのではないだろうか。

コメを材料にしているため、トッピングの幅が広いのも特徴の一つ。意外に思うかもしれないが、のりみそやしょうゆ、野沢菜漬けなど、ご飯にのせるものをコメパンに合わせて食べるのもイケるのである。ゴパンのプロモーションを担当した三洋電機 マーケティング本部の伊藤千恵氏によると、7月21日~9月30日までの期間限定で実施した試食イベント「GOPAN cafe」では、きんぴら、肉じゃがの評判がよかったという。私は甘く味付けした味噌をトーストしたコメパンにのせて食べてみた。美味。たいへん美味しくいただくことができた。

三洋電機 マーケティング本部の伊藤千恵氏。東京・表参道で開催した「GOPAN cafe」には地方からわざわざ試食のために訪れる人も。「目標だった1万人に対し、2ヵ月半で1万4,000人の方に足を運んでいただきました」

じつは、ぐうたら家の娘はもともと「納豆パン」なるものが大好物なんである。普通の食パンに納豆を乗せ、さらにとろけるチーズを加えてオーブンで焼くのである。おやつに納豆パンを食べることもあるくらいだ。ただ、私はどうも、食パンと納豆の相性がいまいちだと感じて、そんなに好きになれなかった。今回、もしかしたらコメパンなら相性がいいのではないかと思い、お土産にいただいたコメパンで納豆パンをつくってみた。結果は、予想通り相性抜群である。実に美味しくできた。コツは、通常のトーストよりもオーブンの時間を短めにすること。納豆やチーズが苦手の方にはおすすめできないが、納豆好きなら、だまされたと思って、コメパンでぜひとも納豆パンを試してみてほしい。

そして、もう一つ、ゴパンの魅力をあげるなら「コスト」である。一斤をこしらえる材料費は約150円。お米を魚沼産コシヒカリなどの高級米を用いると、もう少し高くなるが、スーパーで売っている米ならばこの値段でつくることができる。焼きたてのおいしいパンがこの値段。断然おトクだといえる。

具体的なつくり方については、次回詳細をお伝えする予定だ。そしてもう一つ。もともと三洋電機はエネループや空気で洗う洗濯機など、家電産業のなかでも、画期的な商品を提供し続けた会社である。今回のゴパンも、三洋電機だから生み出すことができたのではないか。今回の取材を通じて、私は確信した。開発者は何を考え、どのようにしてこの商品を世に出したのか。次回詳細をお伝えする。

イラスト:YO-CO