経年変化をプロシージャル生成する(1)~ウェザリング

コンピュータ・グラフィックスは基本的にはピカピカのテカテカの新品状態のような美しい見栄えでレンダリングされることになる。

そうしたピカピカの3Dモデルだけで構築されたシーンはなにやらとても清潔で美しいが、その代わりリアリティがない。

3Dグラフィックスを見たときに「リアリティが足りない」と感じた場合、その原因は1つではないことが多いが、現実世界を模したシーンをレンダリングした際、シーン内のオブジェクトの全てが新品同様の見栄えというのはおかしい。それぞれのモノは製造された年月が違うし、何年そこにあったかで経年劣化していなければ不自然だろう。

模型を作る際、その見た目をリアルにするために、わざと汚す「ウェザリング(Weathering:風化)」というテクニックがあるが、これがリアルを追求するタイプの3Dグラフィックスにおいても必要な局面がよくある。

同一形状モデルでも、置かれる場所によって日当たりが違うし、雨水による濡れ方も違ければ、経年劣化の仕方も変わってくる。また、その3Dモデルも、その形状によって、劣化の進行具合が違ってくる。雨水の浸食で角は丸くなるだろうし、部位ごとの材質によっては錆び方や錆びたときの色も変わってくる。

こうした「経年変化(AGING:エージング)」の作り込みは人間が行ってもいいのだが、シーンが膨大で複雑な場合は、大局的なシミュレーションで行った方が制作負荷が少なくて済むかもしれない。

プロシージャル技術は、こうした「経年変化」表現を取り扱うこともできるのだ。

この分野の研究に注力しているのはマサチューセッツ工科大学のJulie Dorsey教授で、プロシージャル的アプローチの経年劣化表現について数々の論文を発表している。

「Flow and Changes in Appearance」(Julie Dorsey,SIGGRAPH1996)

まず、Dorsey氏が着目したのは、風化の最大要因となる"雨"についてだ(「Flow and Changes in Appearance」(Julie Dorsey,SIGGRAPH1996))。

3Dグラフィックスのシーンに対し、雨を降らせ、この水滴の流れがシーン内の各材質に及ぼす影響についてシミュレーションを行うのだ。なお、シミュレーションはパーティクルベースで行われ、各パーティクルは重力、摩擦、風、抵抗、圧迫などの各パラメータによって運動が制御されて、対象の3Dモデルの各ポリゴンへコンタクトすることになる。

金属材質は水滴によってまず錆びる。その錆は今度は水滴の流れによって流れ出てその軌跡が汚れとなって付着することになる。

図の左の方では銅管の緑青錆が周囲の石壁に流れ出ている。図の右の方では街灯を支えが鉄製なので赤錆が下に流れ出ている

逆に経年によって付着する埃を水滴が洗い流す場合もある。この場合、汚れ方の大小の差が出てくることになる。

「ミロのビーナス像」のシミュレーションでは向かって左側の折れた腕が突き出ている関係で、これが庇(ひさし)となり、雨がその下に流れにくくなるために、横腹の汚れがひどい。また、ビーナス像の下部の服の窪みにはやはり雨が流れにくい。このため服の凹部には汚れが強く残っている。(続く)

パーティクルベースの雨粒を上から振らせて流し、ビーナス像の経年汚れを付加する

左の図が元の状態。右がシミュレーションの結果汚した図

(トライゼット西川善司)